20170710

日本画の支持体-和紙・板・絵絹・麻・石 第五十六回 日本画無料講座

日本画の支持体(和紙・板・絵絹・麻・石など)

今日の日本画無料講座では日本画の支持体(絵具を塗布する面の素材)について述べたいと思います。現代の日本画ではほとんどが機械漉きの和紙が用いられています。仏画では絵絹や麻などの織られた布を用いることがあります。たまに木の板に描かれることもあります。フレスコ画のように石や土や貝殻に直接絵を描くこともあります。ほかには皮革に絵具を塗ることもありましょう。これらの素材のことをまとめて支持体(しじたい)または基底材(きていざい)と呼びます。

和紙に描く

たいていの美術学校や日本画教室では日本画というものは和紙に描いて表現します。水で湿らせた和紙を木の板に張ってから下処理と下塗りや転写(トレース)の工程を経て絵具を塗っていきます。和紙の種類は原材料や漉く方法によりさまざまなものがあります。和紙の厚さも薄いものから厚めのものまであります。制作後にパネルから和紙を剥がして軸装(じくそう)する場合もあります。軸装の欠点は巻いて片付けると絵具が剥落(はくらく)しやすい、またはカビが生じやすいですが飾りっぱなしでは空気中の物質が付着して変色しやすいというデメリットがあります。パネルに和紙を張り付けたままでは高温多湿で木材のヤニや薬剤が和紙に移るという欠点があります。紙に描かれた作品を紙本(しほん)といいます。

著色明恵上人樹上坐禅像 紙本
(Wikipedia.orgより)

木の板に描く(板絵)

和紙が普及する前までは襖(ふすま)といえば昔は木製の襖が防寒や防雨も兼ねて用いられていました。日本画はこのような戸板(といた)に直接描かれることもありました。木の板に描かれた日本画を板絵(いたえ)といいます。あるいは寺社仏閣の意味のある装飾として柱や天井などに着色されることもあります。木の板に日本画を描く欠点は、剥落しやすかったり降雨や風、紫外線などの劣化要因に常に晒されるなどして定期的な塗り替えが必要なところです。板に直接日本画を描く場合はヤニ止め(シーリング)を行います。

板絵(いたえ)の耐久性は高温多湿や微生物に触れやすい環境に晒されていることもあり布に描かれた日本画より劣ります。

2017年になり液体ガラスというものが日本で発明されました。もしかしたらこのような液体ガラスを日本画の表面に塗布すると保存期間が延びるかもしれませんね。

杉板(すぎいた)

杉の木はまっすぐで美しく加工が容易ですが節やヤニや年輪が目立ち水分が減ってくると木質部が薄くなって歪んでくるという特徴があります(筆者の経験)。長い目で見れば杉板は柔らかいため建築資材としては適していないと思います。杉板に描かれた日本画もいくつもありますが、耐久性の面では密度の高い木に劣ります。

欅(けやき)

欅は密度が高く硬さもあり高級資材として昔から重宝されている木材です。楢(なら)やウォルナット、タモの木も欅と同等の耐久性があると思います。もしも木の板に絵を描くのであればこのように硬さもある歪みの少ない木が適しています。

檜(ひのき)

檜(ひのき)は杉よりも密度があり、スギとケヤキの中間程度の硬さです。

鳳凰堂中堂壁扉画
(Wikipedia.orgより)

布に描く

日本画は布にも描くことができます。古くは麻やカラムシ(苧麻・ちょま)に絵を描いていた時代もありましたが絹が国内で自給できるようになった平安時代からは絵絹(えぎぬ)が主流となりました。博物館などの説明によくある絹本(けんぽん)は絹に描かれた作品のことです。絵絹の織り方は昔と現代とでは異なります。麻や絹の布は砧打ち(きぬたうち)といって槌で叩いて滑らかにします(糸の繊維が延びたり潰れます)。

群鶏図
絹本彩色
伊藤若冲
(Wikipedia.orgより)

石に描く

岩や漆喰やモルタルなどの壁に絵を描きます。酸素が少ない低温の状態であれば後の時代まで保存し続けることが可能です。和紙の上に白土や胡粉で下塗りすることや仏像への彩色も本質的には薄い壁に描いていることと似ています。

高松塚古墳
(Wikipedia.orgより)