20170711

胡粉の練り方溶き方 日本画無料講座 第五十八回

日本画での胡粉の使い方

日本画の胡粉の種類と特徴
日本画における本塗り用の胡粉はよくよくすり潰して膠で練って使います。美人画などでは特に胡粉の扱いに厳しいこともあり、しっかりと練って使います。今では吉祥からすでに練られた胡粉が販売されていますので汚れが入ってはいけないような重要な所には既製品を使われることをおすすめします。筆者が胡粉などの白い顔料を練る時に一番気にかけるのがホコリなどのゴミの混入です。指で練っているとどうしてもゴミが入ります。今は昔と違って空気が汚れていますので日本画教室で白色顔料を練るとすぐに真っ白な絵具がゴミだらけになってしまい乾燥する際にもゴミが付着します(老眼の人にはわかりませんが)。胡粉の練り方溶き方はどの本にも同じように説明がなされていますが、筆者が教わった方法はそうではありませんでした。今回は日本で標準的な胡粉の使い方と筆者の実際を交えてご説明したいと思います。

服装や環境を整え手を清める

先に述べましたように、胡粉の仕上がり具合や塗り具合は悲しいことに部屋の中の汚れ具合に大きく影響されます。明るい色調の画面をご制作中の場合にも同じことがいえます。胡粉や明るい顔料を扱う際には決して色の濃い服を着ないようにしましょう。こだわりがない人はどうでもいいかもしれませんが、着ている服のホコリも割と影響されます。正直なところ裸で絵具を練って下塗りをしてもよいくらいです(笑)それくらいホコリというものは溶き皿の絵具や画面に付着しやすいのです。

胡粉を練るために必要な道具類

日本画をお描きのみなさまには説明の必要は無いと思いますが、胡粉を練る際には「乳鉢」というものが必要です。それと絵皿です。乳鉢には大きなものと中くらいのもの、そして小さなものがありますけれど、胡粉を空擦るには大きなものがおすすめです。小さな乳鉢は結構こぼれますし力が入りませんので私も大小持っていますがおすすめはできません。乳鉢の直径は12cm以上あったほうがよいでしょう。
もちろん胡粉と膠液、そして水やお湯も用意しておきましょう。

胡粉の練り方と溶き方の手順

胡粉にホコリという冗談のような本当のことはさておき、胡粉という細かい粒子の顔料の使い方を説明したいと思います。胡粉は塗る前に粒子を潰しておくことが肝心です。

1. 空擦りする

胡粉は玉になって固まっていますので乳鉢などで空擦り(からずり)をしてよく潰します。乳鉢で空擦り(からずり)をしたからといって完璧に潰れていることはありません。少量であれば手で胡粉を擦り潰します。

2. 膠水で練る

胡粉が潰れたら膠水を少しずつ加えて指で練り団子にします。すぐに使う場合は別に団子にする必要はありませんが、指でよく潰しておきます。膠の量は胡粉の三分の二程度です。

3. 団子を叩く(百叩き)

よくある方法ですが、胡粉団子を皿などに何度も叩きつけます。こだわりのある人ほど回数が増えるようです(笑)なぜ胡粉団子を百叩きにするのか筆者も正しい理由は知りません。一説によると空気を抜いて膠と粒子をよくくっつけるらしいですが、筆者の見解ではもしかしたらその後の割れや乾燥時の状態に影響があるから百叩きにしているのではないかと思います。

4. 胡粉団子を湯の中に団子を入れる

胡粉団子に湯を注いでしばらくおいて灰汁(あく)を抜き湯を捨てます。この際に団子が大きければ伸ばして太い麺のようにしておきます。

5. 胡粉団子を腐らせる

さらにこだわりのある方法では一度胡粉の膠を水で腐らせてしまいます。なぜそうするのかについては科学的に証明された理由はありません。一説によるとなめらかに塗れるという説もありますが、筆者の見解ではもしかしたら古糊と目的は同じなのかもと思います。そうすることで作品の保存性が高まるのかもしれませんね。腐敗という工程が加わることで、膜の張り具合も緩くなることでしょう。

6. 水(膠液)で溶いて使用する

好きな量を水または膠水で溶いて使います。膠が腐ったら新しい膠を足しましょう。

7. 作った胡粉の保管について

いたぼ貝やホタテで作られた胡粉(貝殻製)を作った後はラップなどですぐに蓋をしておきましょう。夏場は冷蔵庫での保管がおすすめです。
Youtubeに吉祥のわかりやすい胡粉の溶き方の動画がありましたので日本画の勉強になりますよ。

胡粉(ごふん)の種類と特徴

胡粉には日本が経済成長を遂げてほとんど絶滅したイタボ牡蠣のほかにホタテ貝の胡粉と蛤の胡粉、そしてチタニウムホワイトの胡粉があります。筆者は胡粉を100%の状態でそのまま使うことが無いため胡粉の種類の違いについてはまったく知りません。胡粉はホルベインのほか、ナカガワ胡粉(おそらく本物のイタボ牡蠣を使用)と上羽絵惣(えそう)と吉祥から出ています。胡粉の最上級は「金鳳」と呼ばれ厚みのあるイタボ牡蠣の蓋部のみを使用しています。「白雪」は薄い蓋部のみを使用しています(といわれていますが、筆者が確認したわけではないので他の貝が混入しているかどうかはわかりません)。

1. ホルベインの胡粉

ホルベインは優彩の白鷺胡粉(蛤胡胡粉で空擦りの必要性なし)が販売されています。ホタテ貝の胡粉ように黄変することはないそうです。
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2. ナカガワ胡粉の胡粉

ナカガワ胡粉の「金鳳(きんぽう」)はイタボ牡蠣の蓋部のみを使用しており下のランクの「白壽印」は百叩きをすれば金鳳に劣らぬ白さが出ると書かれていますが原材料の明記はありません。「白雪」は原料の明記はありません。

3. 上羽絵惣の胡粉

この老舗はホタテ貝を使用と書かれていますので今(2017年執筆時)は残念ながらイタボ牡蠣は使われていません。「飛切(カキ原料)」「白鳳」の順に値段が安くなっていきます。安価な胡粉に「白花」や「白雪」もあるようですが、筆者には違いがわかりません。しかし飛切の価格を見ると品質には自信があるようです。

4. 吉祥の胡粉

吉祥の胡粉は伝統的製法でいたぼ牡蠣を使用しており「白玉」が最上級で次いで「白雲」「盛上」の品ぞろえとなっているようです。

パッケージに「水飛」と書かれている場合は「水飛製法」という製法を用いていると思います。筆者は先生が使っている胡粉と同じ物を使っています。大学では特定のメーカーの物をすすめるということはありませんが、個人の日本画教室では先生のお顔を立てつつ教室ですすめられる胡粉を使われることをおすすめいたします。機会がありましたら胡粉の練り方を実演してみたいと思います。

胡粉団子を作る必要性についてですが、団子ができないくらい胡粉が少量しか要らない場合、団子づくりはどうしますか?小さな作品のためにわざわざ団子を作るなんてすぐに続編を制作するのでなければ顔料と膠がもったいないと思います。そうかといって胡粉を指だけで溶くことには少々無理を感じます。どうしても団子を作らなければならない状況は割と限られています。まずは練習として下塗り用の盛上胡粉などで団子づくりを練習して感覚を掴んでいけばよいでしょう。