20170319

日本画和紙の水張り法を実演 日本画無料講座 第五十三回

日本画和紙の水張りの方法(水彩紙の水張りも同じです)

日本画和紙の水張りの方法(水彩紙の水張りも)
日本画を描くためにはまず和紙を水張りします。和紙の水張りとは、和紙を水に浸すことで繊維を伸ばし、平坦な木の板に和紙を張ることで描画時の和紙のたわみを防ぎ描きやすくする方法です。水張りの方法は水彩画とまったく同じです。中学校あたりの美術の授業でも画用紙の水張りを習った人もいらっしゃるのではないでしょうか。

木製パネル(またはベニヤ板)を準備する

作品を描きたいサイズの木製パネルを用意します。木製パネルは画材屋さんで購入することができます。自作したほうがいいという人もいますがFサイズに切る技術やホゾを掘る技術、歪みをなくす技術などが必要です。薄塗りする場合や掛け軸で軸装する場合など、作品を板から外す場合はベニヤ板のほうがコストパフォーマンスが優れます。このベニヤ板はヤニが出ますので中にはジェッソなどの塗料を塗る人もいるそうですが表面を樹脂やカルシウムで固めると湿気が溜まりカビが生じやすくなるデメリットがありますので絵画専用のヤニ止めを使われることが無難です。

和紙をパネルより一回り大きく切り出す

和紙をFサイズまたはPサイズより1.5cm~2cmくらい大きく切り出します。定規と鉛筆を使って裏面に線を引きはさみよりもカッターナイフを使ったほうが美しく切れます。FかPかといいますのは既製品の安価な額縁が買いやすいからです。財力がある場合はお好きなサイズに紙をお切りなってオーダーメードの額縁や掛け軸を注文しましょう。

糊を用意する

デンプン糊を用意します
和紙を木製パネルに水張りするために、大きな刷毛とデンプン糊あるいは水張りテープときれいな水を用意しておきます。水張りテープとは、紙のテープの裏に乾燥した糊が最初から塗ってあり、水に塗れることで接着力が生まれる便利な画材です。

刷毛を用意する

水刷毛を用意します
大きめの刷毛を用意します。刷毛はナイロンよりも羊毛が望ましいです。水を塗るだけですので安価で短毛の刷毛で十分です。安いと毛が抜けやすいですが、高い刷毛でもそれは同じかもしれません。この5号刷毛でも見た目は短毛ですが水の含みは程々で水張りには十分な性能がありました。

水とビニール敷きを用意する

日本画用の水鉢に水を汲んできます。プラスチックの筆洗いでも構いません。水張をする時は床または机が塗れますのでビニールや新聞紙などを敷いておきましょう。

和紙の表裏を確かめる

和紙の表裏を確かめる
和紙には表と裏があります。この三号鳥の子和紙の場合、つるつるしている面が表面で、ざらざらしている面が裏面です。初心者の人は裏面こそが表面であると勘違いしそうですね。私も最初は表と裏を間違えました。水張りの基本は裏面が板に密着するように、裏面に水を塗ります。

和紙の裏面に刷毛で水を塗る

刷毛に水をたっぷり含ませる
まずは刷毛に水をたっぷり含ませます。どの程度水を含ませるかは各人の好みであるのでたっぷりがいいとか、少々筆をしごいて水分を落としたほうがいいとか、スカスカがいいなど定まった方法はありません。私はたっぷりと含ませるようにしていますがポタポタと水が落ちるようなほどではありません。

刷毛で和紙に水を塗ります
刷毛で和紙の裏面に水を塗ります。どこからどの方角に水を塗っていくかは各人の好みといえましょう。角から塗る人、真ん中から塗る人、ランダムに塗る人、紙の伸びを考えるとそれぞれでありどれが良いとは一概に言えません。刷毛で塗る必要性もあるかと言われてみると無いといえます。むしろ刷毛よりも風呂の水に一度に漬けて浮かべたほうが均等に繊維が伸びると思います。要は繊維に水を含ませて伸ばすということです。この時に絶対やってはいけないのがぬるい湯を使うことです。必ず冷たい水を使いましょう。

この段階で失敗する人がいます。それは私です。紙がうまく張れたと思って、さあ下塗りをはじめたら和紙が膨らんで盛り上がって板と和紙の間に空気の膨らみが出来てしまったのです。この時の残念さといったらやり直したいくらいであり、やり直しました(※初心者の方はここでやり直してもまた失敗するので張り直しの必要はありません)。ですので私は先生から教えられた通りではなく、自分なりに工夫して水張りをすることにしました。

淵に糊をつけ周囲だけ貼り合わせる

パネルの枠に糊を塗り和紙を貼る
木製パネルの枠にデンプン糊を塗ります。そして静かに和紙をパネルに降ろし、空気が入らないように張ります。あるいは水で湿らせた水張りテープを周辺に貼り付けます。このとき手でごしごしと和紙をさすってはいけません。手で和紙をこすると和紙が痛みますので絶対にこすってはいけません。バレンもあまりおすすめはできません。大事なポイントは十分に水で和紙の繊維を伸ばしておくことです。私も初心者の頃はよく手や腕で紙を伸ばしたりしていましたが表面の繊維がボロボロと毛玉のようにくるくる剥がれてきますので、本当に作品を大事にしたいなら手で触らないようにしましょう。日本画教室では少々張り方がヘタでも、下手なのは当たり前であるのでうるさくは言われないと思います。特別に水張りを習熟したいという強い動機がなければほどほどの出来栄えで納得しましょう。

和紙の四隅を折りたたむ
和紙と木製パネルの四隅を折りたたみます。畳み方に決まりはありません。その後、描画中に時々剥がれてくることもあります。ただし、後々パネルから作品を剥がすことがある場合は切って処理しないほうが良いでしょう。

糊は密封して冷暗所に保管する

デンプン糊を密封して乾燥を防ぎ冷暗所で保管する
デンプン糊を密封して乾燥を防ぎ冷暗所で保管します。「障子やふすま用の糊」は防腐剤入りのデンプン糊です。フエキ糊は子供用の糊で開封後は乾燥したり分解しやすいです。どちらも放っておくと塊状になりますので密封して水分が飛ばないようにして冷暗所で保管します。フエキ糊のカップは糊を補充すればまた使えますので大事にしてあげましょう。自分でお米などから糊を煮て自作することもできます。

日陰で乾かして完成

室内で乾かして和紙の水張の完成(日本画・水彩兼用)
紫外線の当たらない場所で板に水張りした和紙を乾かせば水張りの完成です。今回は日本画の和紙と木製パネルで詳しく説明してみましたが、この上に透明水彩を描いたって全然オッケーです。水彩紙の水張りと同じですのでこの方法は透明水彩を描く時にも使えます。

日本画の水張りにおすすめの和紙

最後に日本画の水張りにおすすめの和紙を紹介したいと思います。厚塗りをした日本画を木製パネルに張ったまま長期保管するタイプの人におすすめの和紙はズバリ「鳥の子4号」です。鳥の子4号は厚みがあり水を塗っても裏が透けません。4号鳥の子和紙はパルプでできています。パルプの特徴である劣化については10年保管した程度では破れません。4号鳥の子和紙に対し3号鳥の子和紙は少々ミツマタ(三椏)が混ざっており上級の和紙となり紙の裏、つまり板が少し透けます。最高級の雲肌麻紙も種類によっては裏面が透けますが、耐久性があると言われています。鳥の子和紙の相場ですが、地元の画材店で3号で2700円に消費税、4号で1600円に消費税でした。
大事な日本画ですが、費用面で高くつきますので貧乏な人は4号鳥の子で練習するのがよいと思います。初心者の方でもお金持ちの方ははじめから高級和紙を買っていただくとみんなが喜ぶ思います(笑)

20170317

和紙のフォクシング(カビ)除去にエタノール 日本画無料講座 第五十二回

日本画の和紙がカビた(フォクシング褐色斑点が発生した)のでエタノールで除去を試み実験しました

日本画和紙のフォクシングというカビ(褐色斑点)

日本画を描いていると、カビ(フォクシングまたは褐色斑点)という問題に直面します。和紙にオレンジ色のシミや褐色の斑点がいくつも生じるのはカビが原因です。本なども同じようにオレンジ色や茶色のようなシミが発生します。この紙(本や古文書や絵画に使われている紙)や木の板(文化財など木製の作品)に褐色のシミが出来る現象をフォクシング(foxing)と呼びます。

フォクシングは和紙(本や日本画や古文書など植物の繊維)が劣化変質する

私も日本画を描いているのでわかるのですが、フォクシングが発生する場所は湿気の高い場所に集中する傾向にあります。ホコリが溜まると湿気も籠りますのでフォクシングが生じやすくなります。建物の二階以上に置けば良いだろうという単純な考えは対策になりません。家庭用のプラズマクラスター除湿器もフォクシングの対策としては効果がありませんでした。私はシャープのプラズマクラスター除湿器を愛用していますが、除湿効果はあるものの、スイッチを切ればまた湿度はすぐ上がるためカビそのものを防ぐ効果はありませんでした。フォクシングはカビが紙を食べている現象が人の目に見える状態になっているので紙が劣化しています。フォクシングが生じるのは何も和紙や本だけではありません。木綿や麻など植物の繊維で出来ている物ならどんな物でも、着物や洋服にもフォクシングは生じます。

フォクシングはいつ発生するか?

紙にカビが発生する原因に季節はあまり関係ありません。確かに梅雨から秋にかけてカビが生じやすい湿度と気温というものがありますが、湿度が高ければ冬や春でもカビは生じます。和紙を入手したその年あるいは翌年にはフォクシングが生じますので和紙の買いだめなどなさらないようにしましょう。

家庭でできるフォクシング対策

和紙や本をカビさせないためには、狭い所に作品や大事な物を収納しない、ホコリの溜まる場所に置かない、通気性を良くするしか対策はありません。押入れや戸棚などカビが喜ぶ場所に大事な絵画や文書などを保管しないことが一番です。ひと昔前(江戸時代以前)の日本や朝鮮、中国の本棚は部屋の中央に棚が置かれて書物を大事にしていました。桐箱の中にも湿気は入ります(除湿剤を入れて置いたら湿気がしっかりと溜まってました)ので安全とはいえませんが、紫外線を遮る効果のほかには桐の成分がカビを抑制する効果はあるかもしれません(桐箱の外側はカビが生じます)。しかし現代では本や絵画といえば壁の隅に置かれて大事にしていると思い込んでも実際は粗末に扱っていることがほとんどです。また額縁に大事に入れているから安心ということはありません。和紙は湿気を吸収したり放出したりしますのでその際に胞子のフィルターになるものを挟むなどしてカビの付着を防ぐ対策が必要となってきます。フォクシングを防ぐためには紙と乾燥剤を合わせてビニールなどで密閉するしかありません。しかし乾燥し過ぎもまた紙を劣化する原因となり乾燥を好むカビもいますのでカビに対する根本的な解決法は酸素を遮断する以外にありません。

エタノールでカビを殺菌する

日本画和紙にフォクシング(カビ)の発生を確認・除去を試みた
日本画和紙にフォクシング(カビ)の発生を確認したので除去を試みました。この和紙は2年ほど前に購入したものでしばらく段ボール箱に立て掛けたまま保管していたため、段ボールの底面に近い箇所にフォクシング(カビ)が発生していました。筆者も病気がちで絵画を描く気力が無かったので紙のメンテナンスまで気を配っていませんでした。段ボール箱に和紙を入れておいたことがまずかったようです。

このままフォクシングのある和紙を作品に使えばカビが拡がることは間違いありません。誰も見向きもしない私の作品が後世に残るとは思ってもいませんので、せっかくの和紙を捨てるのはもったいないので、できる限りカビを除去ようと試みました。

殺菌用エタノール(アルコール)をフォクシング(カビ)の除去に使います
殺菌用エタノール(アルコール)をフォクシング(カビ)の除去に使います。今回使用したエタノール(アルコール)は「フマキラーキッチン用アルコール除菌」です。どこにでも売られている台所用除菌スプレーです。
通常は博物館や図書館などでこのような余計なエキスの入っていないエタノールを使用します。使用時はマスクとゴーグルと手袋を着用します。無水エタノールは30%の濃度であり今回のような複数のカビを除去したい場合に使用します。消毒用エタノールは濃度が80%あり紙が変形します。参考文献「カビが発生したら」http://www.library.metro.tokyo.jp/Portals/0/15/pdf/15ac3.pdf
カビ(フォクシング)にエタノール(アルコール)を吹きかけました
試しにカビの生えた和紙に家庭用のエタノールを直接噴霧してみました。和紙にエタノールを吹きかけた瞬間は和紙が透き通りました。今回は水張りしたばかりの和紙ですので本のように塗料の脱色や変色の心配がありません。塩素も水洗いすれば使えそうな気もしましたが紙の色が抜けると思いやめました。

エタノールの塗布は吹き付けるのではなくエタノールを染み込ませた絹か何かで拭うなどしてもっと丁寧にしたほうがよいかもしれません。筆者の場合は価値ある作品ではなくまだ描く前の和紙の状態でしたので適当に行いました。

和紙のカビ(フォクシング)除去結果
数時間後・・・フォクシング(カビ)のスポットはきれいに消えたかのように見えました。しかし根が残っているスポットが二か所残りましたのでもう一度エタノールを吹きかけておきました。カビキラーが風呂のカビに完全に効かないのと同じで、どうやらエタノールでも完全にはフォクシング(カビ)を除去することはできないようです。

フォクシング(カビ)除去にエタノール使用は絵画や古文書(本)を傷める危険があることがわかった!

フォクシング除去にエタノールは紙を傷め変質させる

私はフォクシング(カビ)のスポットを除去出来て喜んでいました。しかし私はエタノールが紙の繊維を変質させていることに気が付きました。塩素は明らかに紙を脱色するのに対し、エタノールもまた紙の繊維に浸透して繊維を変質させていました。

念のためもう一度和紙を水で濡らして確かめてみました。するとエタノールを吹き付けたところがきれいに表れました。もしかしたらフマキラーの家庭用エタノールの精油成分あるいはカテキンエキスでありエタノールのシミではないかもしれませんが、これではさすがに日本画を描くことはできません。カビ菌もまだ付着しているだろうし、やむなくこの和紙を破り捨てることになりました。

また実験する機会があれば、次回は家庭用の消毒用エタノールで同じようにエタノールによるシミが和紙に残るのか実験してみたいと思います。

サクションテーブルとは

日本画などの文化財の修復ではサクションテーブル(suction table)という特殊な台が用いられます。要するに網状のテーブルで裏側に水を透過させて汚れを洗浄し裏側から水を吸引します。そして膠で絵具を定着させます。穴の開いた和紙は漉填(すきばめ)という手法で水に溶かした和紙で埋められます。