日本画和紙の水張りの方法(水彩紙の水張りも同じです)
日本画を描くためにはまず和紙を水張りします。和紙の水張りとは、和紙を水に浸すことで繊維を伸ばし、平坦な木の板に和紙を張ることで描画時の和紙のたわみを防ぎ描きやすくする方法です。水張りの方法は水彩画とまったく同じです。中学校あたりの美術の授業でも画用紙の水張りを習った人もいらっしゃるのではないでしょうか。
木製パネル(またはベニヤ板)を準備する
作品を描きたいサイズの木製パネルを用意します。木製パネルは画材屋さんで購入することができます。自作したほうがいいという人もいますがFサイズに切る技術やホゾを掘る技術、歪みをなくす技術などが必要です。薄塗りする場合や掛け軸で軸装する場合など、作品を板から外す場合はベニヤ板のほうがコストパフォーマンスが優れます。このベニヤ板はヤニが出ますので中にはジェッソなどの塗料を塗る人もいるそうですが表面を樹脂やカルシウムで固めると湿気が溜まりカビが生じやすくなるデメリットがありますので絵画専用のヤニ止めを使われることが無難です。
和紙をパネルより一回り大きく切り出す
和紙をFサイズまたはPサイズより1.5cm~2cmくらい大きく切り出します。定規と鉛筆を使って裏面に線を引きはさみよりもカッターナイフを使ったほうが美しく切れます。FかPかといいますのは既製品の安価な額縁が買いやすいからです。財力がある場合はお好きなサイズに紙をお切りなってオーダーメードの額縁や掛け軸を注文しましょう。
糊を用意する
和紙を木製パネルに水張りするために、大きな刷毛とデンプン糊あるいは水張りテープときれいな水を用意しておきます。水張りテープとは、紙のテープの裏に乾燥した糊が最初から塗ってあり、水に塗れることで接着力が生まれる便利な画材です。
刷毛を用意する
大きめの刷毛を用意します。刷毛はナイロンよりも羊毛が望ましいです。水を塗るだけですので安価で短毛の刷毛で十分です。安いと毛が抜けやすいですが、高い刷毛でもそれは同じかもしれません。この5号刷毛でも見た目は短毛ですが水の含みは程々で水張りには十分な性能がありました。
水とビニール敷きを用意する
日本画用の水鉢に水を汲んできます。プラスチックの筆洗いでも構いません。水張をする時は床または机が塗れますのでビニールや新聞紙などを敷いておきましょう。
和紙の表裏を確かめる
和紙には表と裏があります。この三号鳥の子和紙の場合、つるつるしている面が表面で、ざらざらしている面が裏面です。初心者の人は裏面こそが表面であると勘違いしそうですね。私も最初は表と裏を間違えました。水張りの基本は裏面が板に密着するように、裏面に水を塗ります。
和紙の裏面に刷毛で水を塗る
まずは刷毛に水をたっぷり含ませます。どの程度水を含ませるかは各人の好みであるのでたっぷりがいいとか、少々筆をしごいて水分を落としたほうがいいとか、スカスカがいいなど定まった方法はありません。私はたっぷりと含ませるようにしていますがポタポタと水が落ちるようなほどではありません。
刷毛で和紙の裏面に水を塗ります。どこからどの方角に水を塗っていくかは各人の好みといえましょう。角から塗る人、真ん中から塗る人、ランダムに塗る人、紙の伸びを考えるとそれぞれでありどれが良いとは一概に言えません。刷毛で塗る必要性もあるかと言われてみると無いといえます。むしろ刷毛よりも風呂の水に一度に漬けて浮かべたほうが均等に繊維が伸びると思います。要は繊維に水を含ませて伸ばすということです。この時に絶対やってはいけないのがぬるい湯を使うことです。必ず冷たい水を使いましょう。
この段階で失敗する人がいます。それは私です。紙がうまく張れたと思って、さあ下塗りをはじめたら和紙が膨らんで盛り上がって板と和紙の間に空気の膨らみが出来てしまったのです。この時の残念さといったらやり直したいくらいであり、やり直しました(※初心者の方はここでやり直してもまた失敗するので張り直しの必要はありません)。ですので私は先生から教えられた通りではなく、自分なりに工夫して水張りをすることにしました。
淵に糊をつけ周囲だけ貼り合わせる
木製パネルの枠にデンプン糊を塗ります。そして静かに和紙をパネルに降ろし、空気が入らないように張ります。あるいは水で湿らせた水張りテープを周辺に貼り付けます。このとき手でごしごしと和紙をさすってはいけません。手で和紙をこすると和紙が痛みますので絶対にこすってはいけません。バレンもあまりおすすめはできません。大事なポイントは十分に水で和紙の繊維を伸ばしておくことです。私も初心者の頃はよく手や腕で紙を伸ばしたりしていましたが表面の繊維がボロボロと毛玉のようにくるくる剥がれてきますので、本当に作品を大事にしたいなら手で触らないようにしましょう。日本画教室では少々張り方がヘタでも、下手なのは当たり前であるのでうるさくは言われないと思います。特別に水張りを習熟したいという強い動機がなければほどほどの出来栄えで納得しましょう。
和紙と木製パネルの四隅を折りたたみます。畳み方に決まりはありません。その後、描画中に時々剥がれてくることもあります。ただし、後々パネルから作品を剥がすことがある場合は切って処理しないほうが良いでしょう。
糊は密封して冷暗所に保管する
デンプン糊を密封して乾燥を防ぎ冷暗所で保管します。「障子やふすま用の糊」は防腐剤入りのデンプン糊です。フエキ糊は子供用の糊で開封後は乾燥したり分解しやすいです。どちらも放っておくと塊状になりますので密封して水分が飛ばないようにして冷暗所で保管します。フエキ糊のカップは糊を補充すればまた使えますので大事にしてあげましょう。自分でお米などから糊を煮て自作することもできます。
日陰で乾かして完成
紫外線の当たらない場所で板に水張りした和紙を乾かせば水張りの完成です。今回は日本画の和紙と木製パネルで詳しく説明してみましたが、この上に透明水彩を描いたって全然オッケーです。水彩紙の水張りと同じですのでこの方法は透明水彩を描く時にも使えます。