裏打ちに使う糊について
日本画や古文書のの本紙を補強するために裏面に薄い和紙を糊で貼り付ける作業を裏打ちと言います。糊には一般的にたんぱく質などを取り除いた小麦粉の澱粉を粘り気が出るまで煮たものを使います。
歴史
糊の製造方法は古くから中国の「歴史名代記」に書かれています。日本では室町時代くらいから澱粉糊を使っています。京都では麩屋の麩の残りかすをもらって生麩糊として使ってきました。現在では小麦の澱粉を煮て作ります。
特徴
澱粉糊(生麩糊、沈糊)は掛け軸や日本画などの接着剤として用いられます。柔軟で作品に染みが出ず、仕立て直す時にきれいに剥がれます。古糊は糊の中でも最高のものですが、一般的に入手するのは困難です。
沈糊(じんのり)
沈糊(じんのり)とは、小麦粉からたんぱく質を取り除いた澱粉を煮て作られた糊です。裏打ちに使います。生麩糊(しょうふのり)として市販されています。紙の全面に糊をべた塗りをするときに用いるようです。
姫糊(ひめのり)
生麩糊(しょうふのり)とは、米の澱粉を煮て作られた糊です。表具で使われるかはわかりませんが、日本画では裏打ちに使います(べた塗りはしないようです)。
片岡糊
表具師が使っている化学糊。現在は販売されていない。
いちばん糊
表具師が使っている化学糊。
ひょうせん糊
表具師が使っている化学糊。
大和糊(やまとのり)
大和糊(やまとのり)とは、ヤマト株式会社が製造する糊のことです。日本画のパネル張りの際などに用います。澱粉糊にはタピオカが使われており小さいお子様でも工作に仕えます。もしかしたら裏打ちに使っている人がいるかもしれませんね。
フエキ糊
フエキ糊とは、不易糊工業株式会社が製造する糊のことです。日本画や水彩用紙の水張りなどに用います。パッケージは瞳が描かれた黄色い本体に赤色の帽子を模した蓋が目印です。主原料はコーンスターチなので小さなお子様でも安心してお使いいただけます。
洗濯糊
私の手元にある資料では日本画の裏打ちに用いると書いてありますが、その性質を考えるとおすすめできないと思います。安価で防腐剤が入っており使いたい時にすぐに使える手軽さがあります。
糊の作り方
澱粉の粉に4~5倍の水を加え、加熱しながら撹拌します。粘りがでてきたら焦げる前に火から降ろします。冷やして裏ごしをします。これを新糊といいます。できたての糊は1週間ほどで腐ってしまいます。新糊を甕に入れて土の中に埋め、1年以上経過したものを古糊といいます。5年、10年、長いものでは20年寝かせることもあります。糊を寝かせている間に量が減ってしまうのでたくさん作っておく必要があります。
糊の塗り方
平らな机の上にレーヨン紙を敷いてその上に書画を裏向けに起きます。全体に水を霧吹きなどで吹いてしっとりさせるか、水刷毛で撫でるなどして紙の繊維を伸ばしてシワを取り除きます。
別の机に裏打ち用紙を表面が上になるように置きます。
糊に少しずつ水を足しながら5倍~8倍程度に薄めてトロトロになるまで練ります。そして糊を裏ごしして糊刷毛で裏打用紙の表側(つるつるする側)に中心から外側に向かって拡げていきます。全体に糊が行き渡ったら、刷毛で余分な糊を取り除きます。
糊で湿った裏打ち用紙は掛け棒を差し込みゆっくり持ち上げ作品の裏側に重ねます。
棕櫚(しゅろ)刷毛などで裏打ち用紙を撫でるなどして作品と裏打ち用紙を密着させます。
掛け棒などを使って和紙を持ち上げ平らな面に張り付けて乾燥させます。
注意点
作品の和紙の繊維の方向と裏打紙の和紙の繊維の方向は異なるように配置します。
糊の濃度が濃すぎると和紙が反ったりするので可能な限り薄くなるように水を足しましょう。
糊の原材料の入手方法
糊を手に入れるには、市販の薄力粉(小麦粉)が最も簡単です。乾燥させた粉末の状態の生麩糊を入手するはお近くの画材店や通販で購入します。絵画を販売する予定のない方は、図画工作用の糊で十分です。
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生麩糊(沈糊)をお求めの際には原材料が小麦粉かどうかをよく確認しましょう。市販の糊の原料はコーンスターチやキャッサバの澱粉を用いたものが多く、防腐剤が入っている場合もあります。他の澱粉糊をお使いの際には接着具合や酸度や劣化具合をテストしてから表具に用いたほうが良いと思います。