20170317

和紙のフォクシング(カビ)除去にエタノール 日本画無料講座 第五十二回

日本画の和紙がカビた(フォクシング褐色斑点が発生した)のでエタノールで除去を試み実験しました

日本画和紙のフォクシングというカビ(褐色斑点)

日本画を描いていると、カビ(フォクシングまたは褐色斑点)という問題に直面します。和紙にオレンジ色のシミや褐色の斑点がいくつも生じるのはカビが原因です。本なども同じようにオレンジ色や茶色のようなシミが発生します。この紙(本や古文書や絵画に使われている紙)や木の板(文化財など木製の作品)に褐色のシミが出来る現象をフォクシング(foxing)と呼びます。

フォクシングは和紙(本や日本画や古文書など植物の繊維)が劣化変質する

私も日本画を描いているのでわかるのですが、フォクシングが発生する場所は湿気の高い場所に集中する傾向にあります。ホコリが溜まると湿気も籠りますのでフォクシングが生じやすくなります。建物の二階以上に置けば良いだろうという単純な考えは対策になりません。家庭用のプラズマクラスター除湿器もフォクシングの対策としては効果がありませんでした。私はシャープのプラズマクラスター除湿器を愛用していますが、除湿効果はあるものの、スイッチを切ればまた湿度はすぐ上がるためカビそのものを防ぐ効果はありませんでした。フォクシングはカビが紙を食べている現象が人の目に見える状態になっているので紙が劣化しています。フォクシングが生じるのは何も和紙や本だけではありません。木綿や麻など植物の繊維で出来ている物ならどんな物でも、着物や洋服にもフォクシングは生じます。

フォクシングはいつ発生するか?

紙にカビが発生する原因に季節はあまり関係ありません。確かに梅雨から秋にかけてカビが生じやすい湿度と気温というものがありますが、湿度が高ければ冬や春でもカビは生じます。和紙を入手したその年あるいは翌年にはフォクシングが生じますので和紙の買いだめなどなさらないようにしましょう。

家庭でできるフォクシング対策

和紙や本をカビさせないためには、狭い所に作品や大事な物を収納しない、ホコリの溜まる場所に置かない、通気性を良くするしか対策はありません。押入れや戸棚などカビが喜ぶ場所に大事な絵画や文書などを保管しないことが一番です。ひと昔前(江戸時代以前)の日本や朝鮮、中国の本棚は部屋の中央に棚が置かれて書物を大事にしていました。桐箱の中にも湿気は入ります(除湿剤を入れて置いたら湿気がしっかりと溜まってました)ので安全とはいえませんが、紫外線を遮る効果のほかには桐の成分がカビを抑制する効果はあるかもしれません(桐箱の外側はカビが生じます)。しかし現代では本や絵画といえば壁の隅に置かれて大事にしていると思い込んでも実際は粗末に扱っていることがほとんどです。また額縁に大事に入れているから安心ということはありません。和紙は湿気を吸収したり放出したりしますのでその際に胞子のフィルターになるものを挟むなどしてカビの付着を防ぐ対策が必要となってきます。フォクシングを防ぐためには紙と乾燥剤を合わせてビニールなどで密閉するしかありません。しかし乾燥し過ぎもまた紙を劣化する原因となり乾燥を好むカビもいますのでカビに対する根本的な解決法は酸素を遮断する以外にありません。

エタノールでカビを殺菌する

日本画和紙にフォクシング(カビ)の発生を確認・除去を試みた
日本画和紙にフォクシング(カビ)の発生を確認したので除去を試みました。この和紙は2年ほど前に購入したものでしばらく段ボール箱に立て掛けたまま保管していたため、段ボールの底面に近い箇所にフォクシング(カビ)が発生していました。筆者も病気がちで絵画を描く気力が無かったので紙のメンテナンスまで気を配っていませんでした。段ボール箱に和紙を入れておいたことがまずかったようです。

このままフォクシングのある和紙を作品に使えばカビが拡がることは間違いありません。誰も見向きもしない私の作品が後世に残るとは思ってもいませんので、せっかくの和紙を捨てるのはもったいないので、できる限りカビを除去ようと試みました。

殺菌用エタノール(アルコール)をフォクシング(カビ)の除去に使います
殺菌用エタノール(アルコール)をフォクシング(カビ)の除去に使います。今回使用したエタノール(アルコール)は「フマキラーキッチン用アルコール除菌」です。どこにでも売られている台所用除菌スプレーです。
通常は博物館や図書館などでこのような余計なエキスの入っていないエタノールを使用します。使用時はマスクとゴーグルと手袋を着用します。無水エタノールは30%の濃度であり今回のような複数のカビを除去したい場合に使用します。消毒用エタノールは濃度が80%あり紙が変形します。参考文献「カビが発生したら」http://www.library.metro.tokyo.jp/Portals/0/15/pdf/15ac3.pdf
カビ(フォクシング)にエタノール(アルコール)を吹きかけました
試しにカビの生えた和紙に家庭用のエタノールを直接噴霧してみました。和紙にエタノールを吹きかけた瞬間は和紙が透き通りました。今回は水張りしたばかりの和紙ですので本のように塗料の脱色や変色の心配がありません。塩素も水洗いすれば使えそうな気もしましたが紙の色が抜けると思いやめました。

エタノールの塗布は吹き付けるのではなくエタノールを染み込ませた絹か何かで拭うなどしてもっと丁寧にしたほうがよいかもしれません。筆者の場合は価値ある作品ではなくまだ描く前の和紙の状態でしたので適当に行いました。

和紙のカビ(フォクシング)除去結果
数時間後・・・フォクシング(カビ)のスポットはきれいに消えたかのように見えました。しかし根が残っているスポットが二か所残りましたのでもう一度エタノールを吹きかけておきました。カビキラーが風呂のカビに完全に効かないのと同じで、どうやらエタノールでも完全にはフォクシング(カビ)を除去することはできないようです。

フォクシング(カビ)除去にエタノール使用は絵画や古文書(本)を傷める危険があることがわかった!

フォクシング除去にエタノールは紙を傷め変質させる

私はフォクシング(カビ)のスポットを除去出来て喜んでいました。しかし私はエタノールが紙の繊維を変質させていることに気が付きました。塩素は明らかに紙を脱色するのに対し、エタノールもまた紙の繊維に浸透して繊維を変質させていました。

念のためもう一度和紙を水で濡らして確かめてみました。するとエタノールを吹き付けたところがきれいに表れました。もしかしたらフマキラーの家庭用エタノールの精油成分あるいはカテキンエキスでありエタノールのシミではないかもしれませんが、これではさすがに日本画を描くことはできません。カビ菌もまだ付着しているだろうし、やむなくこの和紙を破り捨てることになりました。

また実験する機会があれば、次回は家庭用の消毒用エタノールで同じようにエタノールによるシミが和紙に残るのか実験してみたいと思います。

サクションテーブルとは

日本画などの文化財の修復ではサクションテーブル(suction table)という特殊な台が用いられます。要するに網状のテーブルで裏側に水を透過させて汚れを洗浄し裏側から水を吸引します。そして膠で絵具を定着させます。穴の開いた和紙は漉填(すきばめ)という手法で水に溶かした和紙で埋められます。