20170225

日本画というこだわりを捨てる 日本画無料講座 第五十一回

日本画であることを捨てて自由に描く

日本画

そもそも昔の人は、日本画のことを日本画とは思っていなかったのではないかと思います。古代であれば日本の絵は権力を後世にまで威張って残そうとするためのものであり万民のためのものではありませんでした。中世でも絵というものは中国や朝鮮の仏教文化の影響を受けた貴族が書画をたしなみステイタスを誇示して見栄えを競うためのものであって、感覚的な美を追求して男性社会で交流しつつも男としての優劣を競うためのものや仏教の教えを説明するためのものでした。貴族に文学という暇つぶしのメディアが誕生すると、宮廷文化を描き屋根抜き描法など読者を意識した絵が誕生しました。時代が進むと今度は寺社の坊主や武士が権力を誇示するために描かれた緊張感と威厳ある肖像画を豪華な絵を絵師に描かせて記録を残しました。これらの時代に絵の具というものはたいへん貴重なものであり墨絵が基本でした。庶民が絵を描き始めたのは江戸時代あたりになり汲み取り式の便所が整い酷い疫病と戦乱の世が終わり人々の識字率がよくなってからのことです。江戸や京の町では裕福な庶民が絵を求め、あるいは絵を描きはじめました。その時も日本画という認識はなかったのではないかと思います。

今では日本画というと誰だか知らない偉い人が区別した一ジャンルということになり、日本人が描く絵という大きな枠からは随分と小さなカテゴリに過ぎません。

浮世絵みたいな春画を現在も描く人が存在するのかどうかはわかりませんが、写真やアニメや漫画が春画と同じ目的で作られているのは説明するまでもありません。

つまり「何とか画」というジャンルへのこだわりは、本来は無意味なものなのです。

日本画とは、単なる画材の違いでしかなく、割と風流な絵や仏教的な絵が多いというだけであり、日本画でさえも伝統という枠からは明治時代以降は一部を除いてとっくに離れています。本当に日本画こそが伝統絵画というなら漆喰に絵を描いて極彩色で権力者の肖像画や仏教の絵だけ描いていればいいじゃないですか。そうじゃないのは日本画でさえも変わり続けてきた。つまり、日本画でも権力者の求めに応じて描き方が変化し続けてきたのです。今は国民に権力が委ねられている時代です。民主主義の考え方ではひとりひとりが小さな権力者であるといいますので心のままに描く権利が私たちにはあるのです(当然作品に対する責任も個人にあるわけですが)。よくどう描いていいかわからないと質問をする人が多数おりますけれど、好きなように描けばよいのです。

確かに権力者からお金をもらって作品を作ったり修復するなら伝統技法・伝統の画材を使う必要があります。はっきりいって職人として絵を作るほうが答えが既に決まっているのでラクです。修復という行為は本質的には本物を少しずつ交換して作品をさらにダメにすることになるのですが、私は作品を少しずつばれないように偽物と交換する勇気はないものの、時代とともにオリジナルが失われ偽物に置き換わっていくことはやむを得ないことだと理解しています。

日本画にデッサン力は不要

学校の入試ではデッサン力は必要ですが、日本画を描く際にはデッサン力は不要です。絵を描くためにいちいちデッサン力を求めていたら画材屋さんが潰れてしまいますよ(笑)デッサン力がなければないなりの作品を作ればよいのです。写実力というものは必要な人だけ学べばよいのです。冒頭の絵を見てください。デッサン力というよりも観察力のほうが大事なのです。つまり物を見て大事な瞬間を記憶する能力のことです。こればかりは・・・あったほうがいいですね。動き回ってる動物をデッサンすることは不可能です。動物を描くにはデッサン力よりも特徴を記憶する能力のほうが必要になってきます。写真は脳に残りませんのでダメですよ(笑)日本画の場合、描きたいものを脳に定着させないと描く意味がないのです。写真を日本画で描いてインチキするくらいなら写真を伸ばしたりPhotoshopで背景いじればよっぽどうまく写真を模した作品が作れます。今の時代は絵画でも写真を丸写ししてインチキできる時代ですからね。写真を模した絵も本物を模した絵よりも評価されているのが現代ですからいかにこの世が偽物であふれかえっているか残念でなりません。

日本画で好きな作風で描いてみよう!

日本画といっても一言でどの時代のどんな作風の絵画のことを指すのか、人によってさまざまです。絢爛豪華な襖絵のような権力を誇示する日本画から、墨だけの禅や中国の古典の世界を表現した日本画や、仏教の日本画、近代以降の厚塗りのこってり塗りの日本画や、卓上の小物を描いただけのシンプルな日本画など、西洋技法を織り交ぜた日本画、デフォルメされた日本画までいろいろあります。たいていの作品はかなり簡略化されていて、描きたいスタイルによっては何も精密に写生しなくてもよいし原型にこだわる必要はないのです。要は日本画でさえも好きなように描けばそれでよし!手本の模倣に徹するもよし!筆の勢いに任せるもよし!先生の作風をゲットするもよし!枠を超えて自分を極めるもよし!人生は短いですからあれもこれもと作風をマスターすることはできませんが、日本画を楽しんでいきましょう。

※このコラムは冗談半分のデタラメなので信じないでくださいね。