20170724

川端龍子(かわばたりゅうし)明治日本画家の挑戦 #3

川端龍子(かわばたりゅうし)自己中心的で野心的な日本画家

川端龍子(かわばたりゅうし)
Wikipediaよりライセンスを確認して転載

川端龍子(かわばたりゅうし)は東京の浅草寺本堂の龍の天井画を描いた日本画家です。大衆を意識して大きな画面と大胆な構図、裏が無く躍動感のある作品が特徴です。日の丸の戦闘機を描いたり金閣寺炎上の話題作、大衆の心理を意識した作風で名をはせました。

作品「鳴門」では大きな屏風に青い海、渦潮の線の躍動感が明快で爽快さを表し海鳥が屏風に生命の息吹を与えています。人間にはどうしようもできない大きな力を龍子は描いたのです。

川端龍子は1929年青龍社というサロンを作りました。

「繊細巧緻なる現下一般的の作風に対しての健剛なる芸術に向かっての進軍である。」

川端龍子はアグレッシブな感情と正直な欲望を画面の中に描きました。

初期の川端龍子はゴッホの物真似であるかのような油絵を発表しました。若いころの川端龍子は新聞社に就職し挿絵を描いて画力を鍛えていきました。川端龍子は大衆へ情報発信する仕事に就いていた経験からアイデアを思いつき日本画に転向しました。川端龍子が日本画で発表した作品は「力強く大きな画面」で人の目を引き付けました。

川端龍子は多くの人に見てもらうためには「会場芸術」といって大きな画面で力強くて鮮やかで目立つ絵が良いと考えたようです。従来の日本画は「床の間芸術」と対比されました。

川端龍子は旧態依然とする日本画で目立って儲けようとしていたと思います。川端龍子も人間ですから目立って稼がなければいけません。伝統を重んじる日本画家にしてみれば川端龍子は卑しく映ったのではないかと思います。

川端龍子は中国に渡り日本の飛行機を絵にしました。絵の中の戦闘機に自分自身が乗り込み日の丸の戦闘機の背景には長江の風景が広がっています。
(中国人にしてみれば燃やして処刑したいほど、憎い作品でしょう・・・。)

川端龍子は自分の欲望(目立ちたい、金が欲しい)を否定せずに作品の中に放出したのではないかと思われます。家族の不幸をも芸にする川端龍子はまるで当時卑しいとされていた芸人であるかのようにも見えます。しかしそんな不幸でさえ美に置き換えてしまうのですから、しかも民衆が飢えているときに作品を作る金銭的余裕もあったり、つらいことがあっても自分のための作品づくりに励んでいたようです(もしも飢えた民衆を想うなら高価な画材は使えなかったはずですからそこは日本画家から卑しいと言われても仕方ありません)。

川端龍子は常に自分を表現していたともいえましょう。欲望から離れられない人間の我執を表しているかのようです。

大衆を意識した川端龍子、しかし彼は大衆のことを愛しているというよりもカモとして見ていたと私は思います。いかにしてカモの注目を浴びるか。それは施す愛ではなくて愛を得る欲望そのものだと思うのです。自分が大衆に与えるのではなく、大衆から与えられることを追求した、そのナルシシズムは低俗だと言わざるを得ません。

金閣炎上では(不謹慎にも)赤々と燃える金閣寺を描きました。重要な建築物が燃える様子にわくわくして想像を描きたてられた川端龍子をどう見るかは意見が分かれることでしょう。これが現代なら・・・何を描いていたのでしょうね。少なくとも災害を作品にしてみたらどうなるだろうと考えて世の中の反応を予測してみて袋叩きにあわないエピソードを捜したのではないかと思います。

「これは絵になるぞ!(スクープだ!)」

このように考えた川端龍子の考えはネタを掴んだ新聞記者と同じ感覚だと言えましょう。

そこに他者への思いやりなどかけらもいことは容易に察することができます。しかし新聞や週刊誌の卑しいゴシップを好む人間真理を川端龍子は利用したともいえ、やはり絵で金を儲けるためには日本画家にも卑しさが必要だという結論になったのでしょうか。

富を得た川端龍子の作品は尽きることのない欲望のごとく巨大なものへとなっていきました。誰よりも目立ちたい川端龍子にとって浅草寺の天井画を描くことは願ってもいないことだったでしょう。川端龍子は朝の9時から夜の9時まで創作活動に励みました。

川端龍子の日本画は弟子の高頭信子(2017年時点で存命の人物)に受け継がれました。

※今回はまるで筆者が川端龍子を嫌いであるかのように誤解を受けるかもしれませんが、私が川端龍子を目にしたのは今日がはじめてであり川端龍子のことは名前すらまったく存じ上げませんでした。筆者は好きか嫌いかというところで物を見ているわけではなく、心の本質に迫り龍子が何を考えていたかという本音を分析すると、お世辞にも上品とは言えない日本画家でしたのでそこは正直に述べさせてもらいました。心が卑しくても気高い龍を描けるのですから日本画家など所詮は芸人と同じとみなされても仕方ありません。見ている大衆はそこまで気が付かないか、当時は学の無い人がほとんどでしたから「目立つ=覚えがよい=金になる」という図式が成り立ったのだと思います。卑しい気持ちがなければ絵も高値をつけて大衆に売れないという芸術界の本質に迫ったという意味では日本画の世界に風穴を開けたともいえましょう。

※この文章は持たざる者から見た印象から適当に書いてありますので本気にしないでくださいね。

20170721

池大雅 まだブームが来ていない日本画家 #2

池大雅(Ike no Taiga)

池大雅(Ike no Taiga)
楼閣山水図 左隻(国宝)
Wikipediaよりライセンスを確認して掲載

池大雅(いけのたいが)は江戸時代の文人画家です。1723年に京都に生まれ、黄檗山萬福寺(宇治市)で書を披露して神童と称されました。青年時代は扇などを売りながら生計を立て柳沢淇園らから文人画を学び自らの画風を確立しました。妻の玉瀾も画家です。1776年に56歳で亡くなりました。南画(というより文人画といったほうがいいかも)。

池大雅は前回紹介しました遊び人を極めた英一蝶とは対照的で真面目で堅実な印象があります。当時先進国だった中国に憧れながらも渡航することはできませんでした。与謝野蕪村とも交流があったようです。

本物かどうかわかりませんが、池大雅の書は十万円〜数十万円するようです。意外と安いですね。

池大雅「大雅堂画法」
池大雅「大雅堂画法」

池大雅は技法書「大雅堂画法」を出版しています。松石の手本からはじまり、今の漢字には無い漢字での説明と水墨画の手本が添えられています(すみません、全然読めません!)。後に登場する富岡鉄斎の荒々しい人文画と比べると池大雅の作品は静かに整えられている印象があります。

私は先ほど画風を確立したと書きましたがそれは専門家様の視点です。私の立場からはとてもそんな事は言えませんし言ってはならない気がします。

ど素人の私のイメージでは南画や北宋画の文人画は貴族の思想という印象があって果たして江戸時代の人々に受け入れられたのかどうか疑問です。俗世間から離れた視点が見る者をストレスから解放する、そこまではわかりますが、中国では朝廷を去りながらも心はどこか権力の中枢に向いているような、冤罪や処刑を恐れているものの、お呼びがかかったらいつでも馳せ参じる心意気のようなものが混ざってる気がします。ですので朝廷とはほとんど無縁の我々日本人が中国絵画の神髄をどこまで理解できたのかというと・・・知らない人がほとんどなんじゃないでしょうか。当時は野心のある者が政権に挑むことのない時代でしたから中央を追われた士大夫の心がほんとうに理解できたか疑問です。池大雅のような下級役人の息子、しかも中国との交流のない時代にどの程度の本質への理解があったか興味が湧きました。

やはり本場中国の作品などと比べると日本の水墨画も面白いですね。それで水墨画によく登場するあの山は・・・実はアレ(秘密)なんじゃないかと思ってます。日本の文人画家はその山の正体を知ることはなかったことでしょう。

20170720

英一蝶まだブームが来てない日本画家 #1

英一蝶は未ブームの日本画家

アップルの故スティーブ・ジョブズが蒐集していたことが判明して以来、昨今は猫も杓子も伊藤若冲ですが有名な日本画家の中でまだ一大ブームを引き起こしていない人がいます。それは英一蝶(Hanabusa Icho, またはItcho Hanabusa)です。

Itcho Hanabusa
Wikipediaからライセンスを確かめて表示

英一蝶(はなぶさいっちょう)は江戸時代の日本画家です。1652年に京都で生まれ父は医者でした。少年時代に江戸に移り狩野派に入門して狩野安信の弟子となり2年で破門された後に絵師になりました。しかし画家というものは楽して生きたい部類の人がなるものですから英一蝶もまた例に漏れず遊びに興じるタイプの人間でした。1698年に罪を犯して三宅島に流刑になりました。1709年に江戸にもどり1724年72歳で亡くなりました。

英一蝶
国会図書館からライセンスを確認して転載

英一蝶は江戸の人々に親しまれた画家でした。

英一蝶は俳句や風流が大好きで幼い市川團十郎の手を引いて吉原にも行ったそうです。

大名を巻き込んで吉原で遊びまくっていたので江戸幕府から目を付けられていたようですね。楽しく生き抜きたいという強い意志は誰にも劣らぬものといえましょう。

その作風からは顔料を入手することは難しかったのか、それとも金のかからない描き方が好きだったのかはわかりませんが、あっさりした軽いタッチの作品です。
浮世に自由奔放に生きた英一蝶の日本画はお好きですか?安い物で4万円から、しっかりした作品は数十万円で買えるみたいですね。意外と価値が低いですね。国立国会図書館のデジタルコレクションで英一蝶の図譜が無料で見られますよ。

20170711

胡粉の練り方溶き方 日本画無料講座 第五十八回

日本画での胡粉の使い方

日本画の胡粉の種類と特徴
日本画における本塗り用の胡粉はよくよくすり潰して膠で練って使います。美人画などでは特に胡粉の扱いに厳しいこともあり、しっかりと練って使います。今では吉祥からすでに練られた胡粉が販売されていますので汚れが入ってはいけないような重要な所には既製品を使われることをおすすめします。筆者が胡粉などの白い顔料を練る時に一番気にかけるのがホコリなどのゴミの混入です。指で練っているとどうしてもゴミが入ります。今は昔と違って空気が汚れていますので日本画教室で白色顔料を練るとすぐに真っ白な絵具がゴミだらけになってしまい乾燥する際にもゴミが付着します(老眼の人にはわかりませんが)。胡粉の練り方溶き方はどの本にも同じように説明がなされていますが、筆者が教わった方法はそうではありませんでした。今回は日本で標準的な胡粉の使い方と筆者の実際を交えてご説明したいと思います。

服装や環境を整え手を清める

先に述べましたように、胡粉の仕上がり具合や塗り具合は悲しいことに部屋の中の汚れ具合に大きく影響されます。明るい色調の画面をご制作中の場合にも同じことがいえます。胡粉や明るい顔料を扱う際には決して色の濃い服を着ないようにしましょう。こだわりがない人はどうでもいいかもしれませんが、着ている服のホコリも割と影響されます。正直なところ裸で絵具を練って下塗りをしてもよいくらいです(笑)それくらいホコリというものは溶き皿の絵具や画面に付着しやすいのです。

胡粉を練るために必要な道具類

日本画をお描きのみなさまには説明の必要は無いと思いますが、胡粉を練る際には「乳鉢」というものが必要です。それと絵皿です。乳鉢には大きなものと中くらいのもの、そして小さなものがありますけれど、胡粉を空擦るには大きなものがおすすめです。小さな乳鉢は結構こぼれますし力が入りませんので私も大小持っていますがおすすめはできません。乳鉢の直径は12cm以上あったほうがよいでしょう。
もちろん胡粉と膠液、そして水やお湯も用意しておきましょう。

胡粉の練り方と溶き方の手順

胡粉にホコリという冗談のような本当のことはさておき、胡粉という細かい粒子の顔料の使い方を説明したいと思います。胡粉は塗る前に粒子を潰しておくことが肝心です。

1. 空擦りする

胡粉は玉になって固まっていますので乳鉢などで空擦り(からずり)をしてよく潰します。乳鉢で空擦り(からずり)をしたからといって完璧に潰れていることはありません。少量であれば手で胡粉を擦り潰します。

2. 膠水で練る

胡粉が潰れたら膠水を少しずつ加えて指で練り団子にします。すぐに使う場合は別に団子にする必要はありませんが、指でよく潰しておきます。膠の量は胡粉の三分の二程度です。

3. 団子を叩く(百叩き)

よくある方法ですが、胡粉団子を皿などに何度も叩きつけます。こだわりのある人ほど回数が増えるようです(笑)なぜ胡粉団子を百叩きにするのか筆者も正しい理由は知りません。一説によると空気を抜いて膠と粒子をよくくっつけるらしいですが、筆者の見解ではもしかしたらその後の割れや乾燥時の状態に影響があるから百叩きにしているのではないかと思います。

4. 胡粉団子を湯の中に団子を入れる

胡粉団子に湯を注いでしばらくおいて灰汁(あく)を抜き湯を捨てます。この際に団子が大きければ伸ばして太い麺のようにしておきます。

5. 胡粉団子を腐らせる

さらにこだわりのある方法では一度胡粉の膠を水で腐らせてしまいます。なぜそうするのかについては科学的に証明された理由はありません。一説によるとなめらかに塗れるという説もありますが、筆者の見解ではもしかしたら古糊と目的は同じなのかもと思います。そうすることで作品の保存性が高まるのかもしれませんね。腐敗という工程が加わることで、膜の張り具合も緩くなることでしょう。

6. 水(膠液)で溶いて使用する

好きな量を水または膠水で溶いて使います。膠が腐ったら新しい膠を足しましょう。

7. 作った胡粉の保管について

いたぼ貝やホタテで作られた胡粉(貝殻製)を作った後はラップなどですぐに蓋をしておきましょう。夏場は冷蔵庫での保管がおすすめです。
Youtubeに吉祥のわかりやすい胡粉の溶き方の動画がありましたので日本画の勉強になりますよ。

胡粉(ごふん)の種類と特徴

胡粉には日本が経済成長を遂げてほとんど絶滅したイタボ牡蠣のほかにホタテ貝の胡粉と蛤の胡粉、そしてチタニウムホワイトの胡粉があります。筆者は胡粉を100%の状態でそのまま使うことが無いため胡粉の種類の違いについてはまったく知りません。胡粉はホルベインのほか、ナカガワ胡粉(おそらく本物のイタボ牡蠣を使用)と上羽絵惣(えそう)と吉祥から出ています。胡粉の最上級は「金鳳」と呼ばれ厚みのあるイタボ牡蠣の蓋部のみを使用しています。「白雪」は薄い蓋部のみを使用しています(といわれていますが、筆者が確認したわけではないので他の貝が混入しているかどうかはわかりません)。

1. ホルベインの胡粉

ホルベインは優彩の白鷺胡粉(蛤胡胡粉で空擦りの必要性なし)が販売されています。ホタテ貝の胡粉ように黄変することはないそうです。
ホルベイン 白鷺胡粉 130g 500g
楽天 Amazon

2. ナカガワ胡粉の胡粉

ナカガワ胡粉の「金鳳(きんぽう」)はイタボ牡蠣の蓋部のみを使用しており下のランクの「白壽印」は百叩きをすれば金鳳に劣らぬ白さが出ると書かれていますが原材料の明記はありません。「白雪」は原料の明記はありません。

3. 上羽絵惣の胡粉

この老舗はホタテ貝を使用と書かれていますので今(2017年執筆時)は残念ながらイタボ牡蠣は使われていません。「飛切(カキ原料)」「白鳳」の順に値段が安くなっていきます。安価な胡粉に「白花」や「白雪」もあるようですが、筆者には違いがわかりません。しかし飛切の価格を見ると品質には自信があるようです。

4. 吉祥の胡粉

吉祥の胡粉は伝統的製法でいたぼ牡蠣を使用しており「白玉」が最上級で次いで「白雲」「盛上」の品ぞろえとなっているようです。

パッケージに「水飛」と書かれている場合は「水飛製法」という製法を用いていると思います。筆者は先生が使っている胡粉と同じ物を使っています。大学では特定のメーカーの物をすすめるということはありませんが、個人の日本画教室では先生のお顔を立てつつ教室ですすめられる胡粉を使われることをおすすめいたします。機会がありましたら胡粉の練り方を実演してみたいと思います。

胡粉団子を作る必要性についてですが、団子ができないくらい胡粉が少量しか要らない場合、団子づくりはどうしますか?小さな作品のためにわざわざ団子を作るなんてすぐに続編を制作するのでなければ顔料と膠がもったいないと思います。そうかといって胡粉を指だけで溶くことには少々無理を感じます。どうしても団子を作らなければならない状況は割と限られています。まずは練習として下塗り用の盛上胡粉などで団子づくりを練習して感覚を掴んでいけばよいでしょう。

裏打ち紙の種類と特徴 日本画無料講座 第五十七回

日本画の裏打ち紙の種類と特徴

楮(和紙)
楮(和紙)Wikipediaより
本日の講座では裏打ち紙(うらうちし)について述べたいと思います。裏打ち紙は和紙や絹などの布に描かれた日本画を補強するために使います。薄美濃紙(うすみのがみ、楮の紙)は裏打ちに最もよく使われる和紙です。細川紙(小川紙のひとつで重要無形文化財)や宇陀紙(楮の厚紙)、美栖紙(みすがみ、楮の紙)も薄手で裏打ちに用いられます。裏打ち紙は色重ねの効果を狙って染色してから貼り付けることもあります。裏打ちは何枚か重ねることもあります。裏打ちにはカビ予防のため古糊(6年ほど寝かせた糊)が用いられます。もしかしたら補強のために紙以外にも絹などの布地を使うこともあるかもしれません。石州紙(せきしゅうし、楮の紙)は耐久性があり表具の下張りに用いられます。泥間合紙(雁皮紙)は耐熱性と虫に強い特徴があります。黒谷の楮紙は屏風の羽に使われます。打紙は湿らせ木槌や打刷毛などを用いて叩いて密度を上げたものを使います(砧打ち)。
薄美濃紙(うすみのがみ)・・・裏打ちの定番の紙です。肌裏とも呼ばれます。
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細川紙(ほそかわがみ)・・・かつては和歌山県の細川村で作られていた技術が江戸中期に埼玉県の小川村に入ってきました。埼玉県の秩父市に和紙の里があり細川紙はそこで見られます。
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宇陀紙(うだがみ)・・・何枚か重ねて裏打ちに使います。総裏ともいわれます。奈良県吉野郡吉野町国栖が産地で工房では体験教室も開かれています。
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美栖紙(みすがみ)・・・中裏または増裏ともいわれます。工房によっては紙に胡粉や澱粉が混ぜられていることもあります。
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楮紙

楮には上記で述べた紙のほかに典具帖紙(てんぐじょうし)や奉書紙(ほうしょし)などの薄紙があります。和紙には澱粉や石の粉末(泥)を添加されたものもあります。
典具帖紙(てんぐじょうし)・・・高知県や岐阜美濃が産地です。
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英語では和紙のことをJapanese tissueと呼びます。楮はそのままKozoと書きます。紙は中性紙を用い酸性紙は保存に向かないため用いません(すぐボロボロになります)。

20170710

日本画の支持体-和紙・板・絵絹・麻・石 第五十六回 日本画無料講座

日本画の支持体(和紙・板・絵絹・麻・石など)

今日の日本画無料講座では日本画の支持体(絵具を塗布する面の素材)について述べたいと思います。現代の日本画ではほとんどが機械漉きの和紙が用いられています。仏画では絵絹や麻などの織られた布を用いることがあります。たまに木の板に描かれることもあります。フレスコ画のように石や土や貝殻に直接絵を描くこともあります。ほかには皮革に絵具を塗ることもありましょう。これらの素材のことをまとめて支持体(しじたい)または基底材(きていざい)と呼びます。

和紙に描く

たいていの美術学校や日本画教室では日本画というものは和紙に描いて表現します。水で湿らせた和紙を木の板に張ってから下処理と下塗りや転写(トレース)の工程を経て絵具を塗っていきます。和紙の種類は原材料や漉く方法によりさまざまなものがあります。和紙の厚さも薄いものから厚めのものまであります。制作後にパネルから和紙を剥がして軸装(じくそう)する場合もあります。軸装の欠点は巻いて片付けると絵具が剥落(はくらく)しやすい、またはカビが生じやすいですが飾りっぱなしでは空気中の物質が付着して変色しやすいというデメリットがあります。パネルに和紙を張り付けたままでは高温多湿で木材のヤニや薬剤が和紙に移るという欠点があります。紙に描かれた作品を紙本(しほん)といいます。

著色明恵上人樹上坐禅像 紙本
(Wikipedia.orgより)

木の板に描く(板絵)

和紙が普及する前までは襖(ふすま)といえば昔は木製の襖が防寒や防雨も兼ねて用いられていました。日本画はこのような戸板(といた)に直接描かれることもありました。木の板に描かれた日本画を板絵(いたえ)といいます。あるいは寺社仏閣の意味のある装飾として柱や天井などに着色されることもあります。木の板に日本画を描く欠点は、剥落しやすかったり降雨や風、紫外線などの劣化要因に常に晒されるなどして定期的な塗り替えが必要なところです。板に直接日本画を描く場合はヤニ止め(シーリング)を行います。

板絵(いたえ)の耐久性は高温多湿や微生物に触れやすい環境に晒されていることもあり布に描かれた日本画より劣ります。

2017年になり液体ガラスというものが日本で発明されました。もしかしたらこのような液体ガラスを日本画の表面に塗布すると保存期間が延びるかもしれませんね。

杉板(すぎいた)

杉の木はまっすぐで美しく加工が容易ですが節やヤニや年輪が目立ち水分が減ってくると木質部が薄くなって歪んでくるという特徴があります(筆者の経験)。長い目で見れば杉板は柔らかいため建築資材としては適していないと思います。杉板に描かれた日本画もいくつもありますが、耐久性の面では密度の高い木に劣ります。

欅(けやき)

欅は密度が高く硬さもあり高級資材として昔から重宝されている木材です。楢(なら)やウォルナット、タモの木も欅と同等の耐久性があると思います。もしも木の板に絵を描くのであればこのように硬さもある歪みの少ない木が適しています。

檜(ひのき)

檜(ひのき)は杉よりも密度があり、スギとケヤキの中間程度の硬さです。

鳳凰堂中堂壁扉画
(Wikipedia.orgより)

布に描く

日本画は布にも描くことができます。古くは麻やカラムシ(苧麻・ちょま)に絵を描いていた時代もありましたが絹が国内で自給できるようになった平安時代からは絵絹(えぎぬ)が主流となりました。博物館などの説明によくある絹本(けんぽん)は絹に描かれた作品のことです。絵絹の織り方は昔と現代とでは異なります。麻や絹の布は砧打ち(きぬたうち)といって槌で叩いて滑らかにします(糸の繊維が延びたり潰れます)。

群鶏図
絹本彩色
伊藤若冲
(Wikipedia.orgより)

石に描く

岩や漆喰やモルタルなどの壁に絵を描きます。酸素が少ない低温の状態であれば後の時代まで保存し続けることが可能です。和紙の上に白土や胡粉で下塗りすることや仏像への彩色も本質的には薄い壁に描いていることと似ています。

高松塚古墳
(Wikipedia.orgより)

20170703

岩絵具の混色の方法 第五十五回 日本画無料講座

岩絵具の混色

通常日本画では絵の具の混色はあまり行われてきませんでした。それというのも岩石を砕いた絵の具は粒子が荒いので透明水彩や油彩絵の具のように混色できないからです。今回は比較的相性の良い日本画の絵の具を混色してみました。今回使用しました岩絵具は方解末12番と中川胡粉の岩若葉11番です。

日本画岩絵具の混色方法-方解末

まずは絵皿に適量の岩絵具を出し指で混ぜます。

日本画岩絵具の混色方法2

膠水を少量垂らしてよく練り好みの固さにして混色の完成です。

今回は11番の粒子と12番の粒子の組み合わせですが、岩絵具を混色する場合は同じ粒子番号の絵具を用います。異なる粒子番号や材質の岩絵具を混色すると比重などの違いによりどちらか一方が浮いてしまったり、あるいは沈殿して混色の効果が失われます。

また、写真で見てみると絵具が濡れているときには緑色がちょうどよい感じに見えますが、絵具が乾くと方解末の白さが強調されました。

日本画用の絵具は湿っている時と乾いている時とではまったく異なる色になる絵具がいくつもあります。

今回の場合、若葉の11番は方解末12番より粒子が荒いので、方解末の白さが上面に際立ち若葉は沈殿して目立たない感じになりました。透明水彩ではこのような現象は無く水で溶いた色がほぼそのまま白い紙の上に反映されます。

岩絵具の混色はできる物とできない物があります。粒子番号が荒くなると混色というよりも点で描いているような感じになります。近い色合い同士の組み合わせは比較的混色の相性が良いですが、赤と緑などの反発し合うような色の混色は難しく透明水彩のようにグレーを作ることはできません。日本画絵具は不透明ですから透明な混色というものはできません。素材によっては有毒となる組み合わせもあるかもしれません。

混色するとどんな色になるか少量ずついろいろ試して色を探してみましょう。

20170701

図書レビュー「図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」東京芸術大学大学院文化財保存学日本画研究室編

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復のレビュー

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復

本日レビューします日本画の図書は「図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」東京藝術大学大学院文化財保存学日本画研究室編 東京美術出版(2008年 第三版)です。この本は日本画の参考図書としては直接の教科書にはならないものの、日本の文化財の展覧会に行くときには知っておいたほうがよい知識が書かれている本です。尚、同著者の「図解 日本画用語事典」はこの本をさらに詳しく分解して個別に説明した本であり、今回紹介します「図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」は教科書的な役割の本となっています。

本書の目次

本書の構成は五部となっています。第一部は日本画全般についての説明です。基底材といって紙や絹、木に絵を描く方法と絵具や膠や筆などの道具、技法についての説明があります。第二部は模写の世界、第三部は修復の世界、第四部は研究の世界、そして最後はメッセージとなっていて初学者でも日本画と日本の文化財の知識を深めることができるようになっています。

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復目次

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復目次

本の内容のレビュー

この本は同著者の「日本画用語事典」よりは文字が一回り大きく3mm程度の大きさで若いうちなら目を凝らさなくても割と読めるようになっていますが、50代を過ぎると悲しいかな虫メガネや老眼鏡が必要な感じです。やはり注釈などは2mm程度と小さな文字で写真も小さく日本画をはじめられた多くの高齢者にとっては読みづらいです。価格は2,500円に消費税8%であり「日本画用語事典」よりは千円安いものの、内容はその分薄く情報量も少な目です。しかしこれから大学や博物館などの講習に行かれる方が予習としてお読みになるには十分の知識が書かれていますので、この本を読むだけでもお教授様や学芸員の先生方の言っている事の意味が理解できるはずだと思います。たまーに知識の風呂敷を広げて先生に擦り寄る(金持ち)オジサンが生徒でいますけどね(笑)いくら趣味とはいえ、先生の隣はこれから発芽する若い者に席を譲ってあげるべきだと思います。

この本は個別の絵具については詳しく説明されていません。おおざっぱに岩絵具、新岩絵具、水干絵具という説明と製造工程の写真が載っています。膠については2ページが割かれており、写真入りの製造工程も載っています。用具もたったの2ページですし、描き方の2ページだけの紹介です。技法をお求めの方には物足りない内容といえましょう。だいたい何でも2ページですね(笑)

修復に結構ボリュームが割かれています。

あくまで最低限の必須の知識であっても、日本画の知識に漏れがある人にとっては入門書的な役割の本になると思います。しかし買ってまで読む必要があるかというとそうとは言い切れません。

ご苦労されて執筆・編集されたのはわかるのですが、同じ値段なら各分野の「詳論」を1冊ずつ未知の知識や伝統技法を詳しく本にしてくれたほうが学習者だけでなく各美術館・博物館の学芸員にとっても、本質的には日本の文化財を保護するためにもよっぽど有難いといえましょう。

お近くの図書館にあれば借りて読む価値はあるでしょう。冒頭の年表はちょっとした歴史の勉強になります。
図解 日本画の伝統と継承―素材・模写・修復 内容は薄めですが、アマゾンでのご購入はこちらです。今なら中古で半額以下で買えます。

図解 日本画用語事典 やはり、こちらの本のほうがさらに文字が小さいけどまだマシですね。でも値段高すぎ!アマゾンでの購入はこちらからです。楽天ブックスにも図解日本画用語事典 [ 東京芸術大学 ]はあります。
今回の貧乏日曜日本画家のレビューの内容がよければ本を買って行ってくださいね。