20161017

第四十八回 日本画無料講座 岩絵具を盛り上げてマチェールを作る方法

日本画の岩絵具を盛り上げてマチェールを作る方法

こんにちは。みなさん制作の調子はいかがでしょうか。日本画は色重ねの美しさ、といいますが、現代の日本画は近代に見られた「色重ねの美しさ」や「余白の美」だけではまったく評価されない時代となってしまいました。むしろ、下の色を隠すほど厚塗りしているほうが、たくさん描いたから、というような理由といいますか、画面に隙(余白の美しさ)がないと良いと判断されることもしばしばで、価値観というものは美をもダメにしてしまうものだと感じる昨今です。

美とはかけ離れた領域で優劣が競われている現代日本画ですが、それらの日本画によくみられる手法として、岩絵具の盛上という技法があります。

日本画の岩絵具で盛上げたところ
日本画の岩絵具で盛上げたところです(筆者制作)

写真が見づらくて申し訳ありませんが、これが今流行ってる日本画の岩絵具で画面を盛り上げて仕事をしましたという感じを出すセコい演出です。

本来は岩絵具の和紙全体への盛上げを意図的にやるものではないと思うのですが、仕事をしました~みたいな感じを出すためにわざとやる人も多いのではないかと思います。ほら、アレと同じ、コピペして自分のロゴを作りました~みたいなレベルですので誰でも簡単に、初心者の方でもこの写真のような絵肌を作ることが可能です。

この盛上げ技法は被覆力が強いので、下の層を隠すことが可能ですが、それをしてしまいますと、自分の技量のなさが露呈しますし、日展画家でも平気でこんな風になさっている人もよくお見かけしますので、私はこうした隠ぺい・ごまかし技法は日本画の趣旨から離れますので好きではないのですが、これがまた評価される要素のひとつとなっていますから、みなさんにもご紹介、ネタ晴らししようと思いました。

もちろん、この凹凸を生かして何かを表すということもよいとは思いますが・・・本質的には日本画ではなくなると思います。でもこうでもしないと、市展レベルでも日展系の審査員にはまったく見向きもされないし、画面に厚みを持たせて派手に演出することはまるで評価基準のひとつになっているという日展系の審査員の間での既成事実は無視できないと思います。

では何番の岩絵具を使えば、この日本画の塗り方ができるかといいますと、意外と何番でもいけますし、大体10~12番あたりの範囲内なら簡単にできると思います。この方法は「平筆」を使ってさっと塗ります。

この方法は水彩と同じでテクニック、技法のひとつといってもいいでしょう。ただ日本画の場合、この方法で被覆しますと、下塗りに使った絵具がもったいないと思います。昔の人は貧しかったので、少ない資源でもっと絵具を大事にしてたと思います。だからこのような塗り方をすればもう日本画ではないといいますか、マチェールは洋画以降の美術用語ですから、区分は近・現代アートに入るんじゃないかと思います。

そうです。もはや日本画は、日本画たる花鳥風月、山水、人物などという表現ジャンルに加え、洋画の技法(何とかイズム)でも描くことが可能なのですから、猫も杓子もこぞって現代アートで日本画を描いて応募する人が多いです。だから「え、これが日本画?」みたいに見る人が戸惑ったり、何も知らない人にはむしろ現代アートの日本画のほうが刺激が強くて鈍感になった都会人に受け入れられたりもします。そして現代アートのほうが自己主張やメッセージ性が強いものですから、公募展では「控え目な、おしとやかな、純朴な」といった可憐で儚い日本らしさを表現した本来の日本画は負けてしまうのです。今大人気の伊藤若冲の墨絵は価値は高くても三大公募展に出しても選外でしょう。もちろん写生は大事ですが、学校で求められるような写実のレベルは写真を見て描きたくなるほど写実が好きな人以外に必要ないのだとわかります。そんな意味では基本的な画力は日本画家より漫画家のほうが、はるかにデッサン力は上なのではないかと思えてくるほどです。

やはり日本画は、デッサン力や知識などよりも、欲が少ない田舎のおばーちゃんが描いた絵のほうがどんなプロの作品よりも勝ると思います(筆者の個人的見解です)。なぜなら、それが一番日本人の良心を表しているからです。