20170711

裏打ち紙の種類と特徴 日本画無料講座 第五十七回

日本画の裏打ち紙の種類と特徴

楮(和紙)
楮(和紙)Wikipediaより
本日の講座では裏打ち紙(うらうちし)について述べたいと思います。裏打ち紙は和紙や絹などの布に描かれた日本画を補強するために使います。薄美濃紙(うすみのがみ、楮の紙)は裏打ちに最もよく使われる和紙です。細川紙(小川紙のひとつで重要無形文化財)や宇陀紙(楮の厚紙)、美栖紙(みすがみ、楮の紙)も薄手で裏打ちに用いられます。裏打ち紙は色重ねの効果を狙って染色してから貼り付けることもあります。裏打ちは何枚か重ねることもあります。裏打ちにはカビ予防のため古糊(6年ほど寝かせた糊)が用いられます。もしかしたら補強のために紙以外にも絹などの布地を使うこともあるかもしれません。石州紙(せきしゅうし、楮の紙)は耐久性があり表具の下張りに用いられます。泥間合紙(雁皮紙)は耐熱性と虫に強い特徴があります。黒谷の楮紙は屏風の羽に使われます。打紙は湿らせ木槌や打刷毛などを用いて叩いて密度を上げたものを使います(砧打ち)。
薄美濃紙(うすみのがみ)・・・裏打ちの定番の紙です。肌裏とも呼ばれます。
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細川紙(ほそかわがみ)・・・かつては和歌山県の細川村で作られていた技術が江戸中期に埼玉県の小川村に入ってきました。埼玉県の秩父市に和紙の里があり細川紙はそこで見られます。
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宇陀紙(うだがみ)・・・何枚か重ねて裏打ちに使います。総裏ともいわれます。奈良県吉野郡吉野町国栖が産地で工房では体験教室も開かれています。
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美栖紙(みすがみ)・・・中裏または増裏ともいわれます。工房によっては紙に胡粉や澱粉が混ぜられていることもあります。
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楮紙

楮には上記で述べた紙のほかに典具帖紙(てんぐじょうし)や奉書紙(ほうしょし)などの薄紙があります。和紙には澱粉や石の粉末(泥)を添加されたものもあります。
典具帖紙(てんぐじょうし)・・・高知県や岐阜美濃が産地です。
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英語では和紙のことをJapanese tissueと呼びます。楮はそのままKozoと書きます。紙は中性紙を用い酸性紙は保存に向かないため用いません(すぐボロボロになります)。

20170710

日本画の支持体-和紙・板・絵絹・麻・石 第五十六回 日本画無料講座

日本画の支持体(和紙・板・絵絹・麻・石など)

今日の日本画無料講座では日本画の支持体(絵具を塗布する面の素材)について述べたいと思います。現代の日本画ではほとんどが機械漉きの和紙が用いられています。仏画では絵絹や麻などの織られた布を用いることがあります。たまに木の板に描かれることもあります。フレスコ画のように石や土や貝殻に直接絵を描くこともあります。ほかには皮革に絵具を塗ることもありましょう。これらの素材のことをまとめて支持体(しじたい)または基底材(きていざい)と呼びます。

和紙に描く

たいていの美術学校や日本画教室では日本画というものは和紙に描いて表現します。水で湿らせた和紙を木の板に張ってから下処理と下塗りや転写(トレース)の工程を経て絵具を塗っていきます。和紙の種類は原材料や漉く方法によりさまざまなものがあります。和紙の厚さも薄いものから厚めのものまであります。制作後にパネルから和紙を剥がして軸装(じくそう)する場合もあります。軸装の欠点は巻いて片付けると絵具が剥落(はくらく)しやすい、またはカビが生じやすいですが飾りっぱなしでは空気中の物質が付着して変色しやすいというデメリットがあります。パネルに和紙を張り付けたままでは高温多湿で木材のヤニや薬剤が和紙に移るという欠点があります。紙に描かれた作品を紙本(しほん)といいます。

著色明恵上人樹上坐禅像 紙本
(Wikipedia.orgより)

木の板に描く(板絵)

和紙が普及する前までは襖(ふすま)といえば昔は木製の襖が防寒や防雨も兼ねて用いられていました。日本画はこのような戸板(といた)に直接描かれることもありました。木の板に描かれた日本画を板絵(いたえ)といいます。あるいは寺社仏閣の意味のある装飾として柱や天井などに着色されることもあります。木の板に日本画を描く欠点は、剥落しやすかったり降雨や風、紫外線などの劣化要因に常に晒されるなどして定期的な塗り替えが必要なところです。板に直接日本画を描く場合はヤニ止め(シーリング)を行います。

板絵(いたえ)の耐久性は高温多湿や微生物に触れやすい環境に晒されていることもあり布に描かれた日本画より劣ります。

2017年になり液体ガラスというものが日本で発明されました。もしかしたらこのような液体ガラスを日本画の表面に塗布すると保存期間が延びるかもしれませんね。

杉板(すぎいた)

杉の木はまっすぐで美しく加工が容易ですが節やヤニや年輪が目立ち水分が減ってくると木質部が薄くなって歪んでくるという特徴があります(筆者の経験)。長い目で見れば杉板は柔らかいため建築資材としては適していないと思います。杉板に描かれた日本画もいくつもありますが、耐久性の面では密度の高い木に劣ります。

欅(けやき)

欅は密度が高く硬さもあり高級資材として昔から重宝されている木材です。楢(なら)やウォルナット、タモの木も欅と同等の耐久性があると思います。もしも木の板に絵を描くのであればこのように硬さもある歪みの少ない木が適しています。

檜(ひのき)

檜(ひのき)は杉よりも密度があり、スギとケヤキの中間程度の硬さです。

鳳凰堂中堂壁扉画
(Wikipedia.orgより)

布に描く

日本画は布にも描くことができます。古くは麻やカラムシ(苧麻・ちょま)に絵を描いていた時代もありましたが絹が国内で自給できるようになった平安時代からは絵絹(えぎぬ)が主流となりました。博物館などの説明によくある絹本(けんぽん)は絹に描かれた作品のことです。絵絹の織り方は昔と現代とでは異なります。麻や絹の布は砧打ち(きぬたうち)といって槌で叩いて滑らかにします(糸の繊維が延びたり潰れます)。

群鶏図
絹本彩色
伊藤若冲
(Wikipedia.orgより)

石に描く

岩や漆喰やモルタルなどの壁に絵を描きます。酸素が少ない低温の状態であれば後の時代まで保存し続けることが可能です。和紙の上に白土や胡粉で下塗りすることや仏像への彩色も本質的には薄い壁に描いていることと似ています。

高松塚古墳
(Wikipedia.orgより)

20170703

岩絵具の混色の方法 第五十五回 日本画無料講座

岩絵具の混色

通常日本画では絵の具の混色はあまり行われてきませんでした。それというのも岩石を砕いた絵の具は粒子が荒いので透明水彩や油彩絵の具のように混色できないからです。今回は比較的相性の良い日本画の絵の具を混色してみました。今回使用しました岩絵具は方解末12番と中川胡粉の岩若葉11番です。

日本画岩絵具の混色方法-方解末

まずは絵皿に適量の岩絵具を出し指で混ぜます。

日本画岩絵具の混色方法2

膠水を少量垂らしてよく練り好みの固さにして混色の完成です。

今回は11番の粒子と12番の粒子の組み合わせですが、岩絵具を混色する場合は同じ粒子番号の絵具を用います。異なる粒子番号や材質の岩絵具を混色すると比重などの違いによりどちらか一方が浮いてしまったり、あるいは沈殿して混色の効果が失われます。

また、写真で見てみると絵具が濡れているときには緑色がちょうどよい感じに見えますが、絵具が乾くと方解末の白さが強調されました。

日本画用の絵具は湿っている時と乾いている時とではまったく異なる色になる絵具がいくつもあります。

今回の場合、若葉の11番は方解末12番より粒子が荒いので、方解末の白さが上面に際立ち若葉は沈殿して目立たない感じになりました。透明水彩ではこのような現象は無く水で溶いた色がほぼそのまま白い紙の上に反映されます。

岩絵具の混色はできる物とできない物があります。粒子番号が荒くなると混色というよりも点で描いているような感じになります。近い色合い同士の組み合わせは比較的混色の相性が良いですが、赤と緑などの反発し合うような色の混色は難しく透明水彩のようにグレーを作ることはできません。日本画絵具は不透明ですから透明な混色というものはできません。素材によっては有毒となる組み合わせもあるかもしれません。

混色するとどんな色になるか少量ずついろいろ試して色を探してみましょう。

20170701

図書レビュー「図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」東京芸術大学大学院文化財保存学日本画研究室編

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復のレビュー

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復

本日レビューします日本画の図書は「図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」東京藝術大学大学院文化財保存学日本画研究室編 東京美術出版(2008年 第三版)です。この本は日本画の参考図書としては直接の教科書にはならないものの、日本の文化財の展覧会に行くときには知っておいたほうがよい知識が書かれている本です。尚、同著者の「図解 日本画用語事典」はこの本をさらに詳しく分解して個別に説明した本であり、今回紹介します「図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」は教科書的な役割の本となっています。

本書の目次

本書の構成は五部となっています。第一部は日本画全般についての説明です。基底材といって紙や絹、木に絵を描く方法と絵具や膠や筆などの道具、技法についての説明があります。第二部は模写の世界、第三部は修復の世界、第四部は研究の世界、そして最後はメッセージとなっていて初学者でも日本画と日本の文化財の知識を深めることができるようになっています。

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復目次

図解 日本画の伝統と継承 素材・模写・修復目次

本の内容のレビュー

この本は同著者の「日本画用語事典」よりは文字が一回り大きく3mm程度の大きさで若いうちなら目を凝らさなくても割と読めるようになっていますが、50代を過ぎると悲しいかな虫メガネや老眼鏡が必要な感じです。やはり注釈などは2mm程度と小さな文字で写真も小さく日本画をはじめられた多くの高齢者にとっては読みづらいです。価格は2,500円に消費税8%であり「日本画用語事典」よりは千円安いものの、内容はその分薄く情報量も少な目です。しかしこれから大学や博物館などの講習に行かれる方が予習としてお読みになるには十分の知識が書かれていますので、この本を読むだけでもお教授様や学芸員の先生方の言っている事の意味が理解できるはずだと思います。たまーに知識の風呂敷を広げて先生に擦り寄る(金持ち)オジサンが生徒でいますけどね(笑)いくら趣味とはいえ、先生の隣はこれから発芽する若い者に席を譲ってあげるべきだと思います。

この本は個別の絵具については詳しく説明されていません。おおざっぱに岩絵具、新岩絵具、水干絵具という説明と製造工程の写真が載っています。膠については2ページが割かれており、写真入りの製造工程も載っています。用具もたったの2ページですし、描き方の2ページだけの紹介です。技法をお求めの方には物足りない内容といえましょう。だいたい何でも2ページですね(笑)

修復に結構ボリュームが割かれています。

あくまで最低限の必須の知識であっても、日本画の知識に漏れがある人にとっては入門書的な役割の本になると思います。しかし買ってまで読む必要があるかというとそうとは言い切れません。

ご苦労されて執筆・編集されたのはわかるのですが、同じ値段なら各分野の「詳論」を1冊ずつ未知の知識や伝統技法を詳しく本にしてくれたほうが学習者だけでなく各美術館・博物館の学芸員にとっても、本質的には日本の文化財を保護するためにもよっぽど有難いといえましょう。

お近くの図書館にあれば借りて読む価値はあるでしょう。冒頭の年表はちょっとした歴史の勉強になります。
図解 日本画の伝統と継承―素材・模写・修復 内容は薄めですが、アマゾンでのご購入はこちらです。今なら中古で半額以下で買えます。

図解 日本画用語事典 やはり、こちらの本のほうがさらに文字が小さいけどまだマシですね。でも値段高すぎ!アマゾンでの購入はこちらからです。楽天ブックスにも図解日本画用語事典 [ 東京芸術大学 ]はあります。
今回の貧乏日曜日本画家のレビューの内容がよければ本を買って行ってくださいね。

20170630

図書レビュー「図解 日本画用語事典」東京芸術大学大学院文化財保存学日本画研究室編

図解 日本画用語事典のレビュー

独学で日本画をお学びの皆さんのために今日は東京美術出版の東京芸術大学大学院文化財保存学日本画研究室編集の「図解 日本画用語事典」(2009年第三版)をレビューしたいと思います。監修者のお名前には故平山郁夫先生や田淵俊夫先生などたいへんご高名の先生方が名を連ねておられます。結論から言いますと、日本画を長くお続けになられるなら一冊は手に持っておきたい必携ともいえるおすすめの本ですが、文字がたいへん小さいので三十代後半からの人にはたいへん読みづらい本となっています。どれくらい字が小さいかというと、三十代の私ですら頭が痛くなるほど本文が小さい2mmくらいの大きさです。

日本画用語事典
日本画用語事典の表紙

ではさっそく中身の閲覧といきましょう。

日本画用語事典目次

日本画用語事典目次

この本の構成は主に三部とあとがきから成っています。日本画という漠然としたカテゴリと絵具や道具の説明と、模写修復と保存です。日本画を楽しく描くだけの人にはあまり必要性のない本かもしれませんが、描くだけでも知識がもっと欲しいという人にとっては文化財の修復の知識を知ることも必要ともいえるでしょう。

内容は専門的となっていてフレスコなど一見して日本画とは関係のない用語の説明まであります(が日本画への理解を深めるためには必要な知識です)。ひとつの用語につき大体1行から3行でまとめられており、紅花や裂など日本画には必要がなくても文化財を知るために必要な用語がずらりと並んでいるので日本の博物展を見に行く際にお連れ様に知ったかぶりを披露して呆れられるほどの知識が得られます。

冒頭でも述べましたように、この本はたいへん字が小さいです。ぱそこんでいえばこれくらいの大きさで読むようなものです。よく高齢のお偉方がこれでよいとゴーサインを出したものですね(苦笑)学校の教科書でもこの文字の何倍も大きいですよ・・・。辞書みたいに字の小ささを真似しなくてもよかったのに・・・。ちょっと見るだけで目がかすみますので熟読すると目が悪くなります。

一応は絵具の練り方や膠の溶かし方も小さく載ってますけど、既に日本画を描かれている人にとってこれらの方法は当たり前のことですね。金箔にポマードも明治時代あたりからの既知の方法ですが金箔講習に行っておられない方には制作のヒントになると思います。

これは間違いなく日本画でもたいへん勉強になる本です!

もっと文字が大きかったらなぁ。

価格は定価3,500円+消費税です。
ISBNは978-4808708191です。

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ちょーっと値段が高くて私のような1枚も作品を売ったことのない貧乏日曜画家には手を出しづらいですね。そんな時はお近くの図書館に同じ本が置いてあるかもしれません。

どうでしたか?今回のレビュー記事は(貧乏な)日本画の学習者の視点でわかりやすかったでしょうか。よかったら本を買って行ってくださいね。

20170319

日本画和紙の水張り法を実演 日本画無料講座 第五十三回

日本画和紙の水張りの方法(水彩紙の水張りも同じです)

日本画和紙の水張りの方法(水彩紙の水張りも)
日本画を描くためにはまず和紙を水張りします。和紙の水張りとは、和紙を水に浸すことで繊維を伸ばし、平坦な木の板に和紙を張ることで描画時の和紙のたわみを防ぎ描きやすくする方法です。水張りの方法は水彩画とまったく同じです。中学校あたりの美術の授業でも画用紙の水張りを習った人もいらっしゃるのではないでしょうか。

木製パネル(またはベニヤ板)を準備する

作品を描きたいサイズの木製パネルを用意します。木製パネルは画材屋さんで購入することができます。自作したほうがいいという人もいますがFサイズに切る技術やホゾを掘る技術、歪みをなくす技術などが必要です。薄塗りする場合や掛け軸で軸装する場合など、作品を板から外す場合はベニヤ板のほうがコストパフォーマンスが優れます。このベニヤ板はヤニが出ますので中にはジェッソなどの塗料を塗る人もいるそうですが表面を樹脂やカルシウムで固めると湿気が溜まりカビが生じやすくなるデメリットがありますので絵画専用のヤニ止めを使われることが無難です。

和紙をパネルより一回り大きく切り出す

和紙をFサイズまたはPサイズより1.5cm~2cmくらい大きく切り出します。定規と鉛筆を使って裏面に線を引きはさみよりもカッターナイフを使ったほうが美しく切れます。FかPかといいますのは既製品の安価な額縁が買いやすいからです。財力がある場合はお好きなサイズに紙をお切りなってオーダーメードの額縁や掛け軸を注文しましょう。

糊を用意する

デンプン糊を用意します
和紙を木製パネルに水張りするために、大きな刷毛とデンプン糊あるいは水張りテープときれいな水を用意しておきます。水張りテープとは、紙のテープの裏に乾燥した糊が最初から塗ってあり、水に塗れることで接着力が生まれる便利な画材です。

刷毛を用意する

水刷毛を用意します
大きめの刷毛を用意します。刷毛はナイロンよりも羊毛が望ましいです。水を塗るだけですので安価で短毛の刷毛で十分です。安いと毛が抜けやすいですが、高い刷毛でもそれは同じかもしれません。この5号刷毛でも見た目は短毛ですが水の含みは程々で水張りには十分な性能がありました。

水とビニール敷きを用意する

日本画用の水鉢に水を汲んできます。プラスチックの筆洗いでも構いません。水張をする時は床または机が塗れますのでビニールや新聞紙などを敷いておきましょう。

和紙の表裏を確かめる

和紙の表裏を確かめる
和紙には表と裏があります。この三号鳥の子和紙の場合、つるつるしている面が表面で、ざらざらしている面が裏面です。初心者の人は裏面こそが表面であると勘違いしそうですね。私も最初は表と裏を間違えました。水張りの基本は裏面が板に密着するように、裏面に水を塗ります。

和紙の裏面に刷毛で水を塗る

刷毛に水をたっぷり含ませる
まずは刷毛に水をたっぷり含ませます。どの程度水を含ませるかは各人の好みであるのでたっぷりがいいとか、少々筆をしごいて水分を落としたほうがいいとか、スカスカがいいなど定まった方法はありません。私はたっぷりと含ませるようにしていますがポタポタと水が落ちるようなほどではありません。

刷毛で和紙に水を塗ります
刷毛で和紙の裏面に水を塗ります。どこからどの方角に水を塗っていくかは各人の好みといえましょう。角から塗る人、真ん中から塗る人、ランダムに塗る人、紙の伸びを考えるとそれぞれでありどれが良いとは一概に言えません。刷毛で塗る必要性もあるかと言われてみると無いといえます。むしろ刷毛よりも風呂の水に一度に漬けて浮かべたほうが均等に繊維が伸びると思います。要は繊維に水を含ませて伸ばすということです。この時に絶対やってはいけないのがぬるい湯を使うことです。必ず冷たい水を使いましょう。

この段階で失敗する人がいます。それは私です。紙がうまく張れたと思って、さあ下塗りをはじめたら和紙が膨らんで盛り上がって板と和紙の間に空気の膨らみが出来てしまったのです。この時の残念さといったらやり直したいくらいであり、やり直しました(※初心者の方はここでやり直してもまた失敗するので張り直しの必要はありません)。ですので私は先生から教えられた通りではなく、自分なりに工夫して水張りをすることにしました。

淵に糊をつけ周囲だけ貼り合わせる

パネルの枠に糊を塗り和紙を貼る
木製パネルの枠にデンプン糊を塗ります。そして静かに和紙をパネルに降ろし、空気が入らないように張ります。あるいは水で湿らせた水張りテープを周辺に貼り付けます。このとき手でごしごしと和紙をさすってはいけません。手で和紙をこすると和紙が痛みますので絶対にこすってはいけません。バレンもあまりおすすめはできません。大事なポイントは十分に水で和紙の繊維を伸ばしておくことです。私も初心者の頃はよく手や腕で紙を伸ばしたりしていましたが表面の繊維がボロボロと毛玉のようにくるくる剥がれてきますので、本当に作品を大事にしたいなら手で触らないようにしましょう。日本画教室では少々張り方がヘタでも、下手なのは当たり前であるのでうるさくは言われないと思います。特別に水張りを習熟したいという強い動機がなければほどほどの出来栄えで納得しましょう。

和紙の四隅を折りたたむ
和紙と木製パネルの四隅を折りたたみます。畳み方に決まりはありません。その後、描画中に時々剥がれてくることもあります。ただし、後々パネルから作品を剥がすことがある場合は切って処理しないほうが良いでしょう。

糊は密封して冷暗所に保管する

デンプン糊を密封して乾燥を防ぎ冷暗所で保管する
デンプン糊を密封して乾燥を防ぎ冷暗所で保管します。「障子やふすま用の糊」は防腐剤入りのデンプン糊です。フエキ糊は子供用の糊で開封後は乾燥したり分解しやすいです。どちらも放っておくと塊状になりますので密封して水分が飛ばないようにして冷暗所で保管します。フエキ糊のカップは糊を補充すればまた使えますので大事にしてあげましょう。自分でお米などから糊を煮て自作することもできます。

日陰で乾かして完成

室内で乾かして和紙の水張の完成(日本画・水彩兼用)
紫外線の当たらない場所で板に水張りした和紙を乾かせば水張りの完成です。今回は日本画の和紙と木製パネルで詳しく説明してみましたが、この上に透明水彩を描いたって全然オッケーです。水彩紙の水張りと同じですのでこの方法は透明水彩を描く時にも使えます。

日本画の水張りにおすすめの和紙

最後に日本画の水張りにおすすめの和紙を紹介したいと思います。厚塗りをした日本画を木製パネルに張ったまま長期保管するタイプの人におすすめの和紙はズバリ「鳥の子4号」です。鳥の子4号は厚みがあり水を塗っても裏が透けません。4号鳥の子和紙はパルプでできています。パルプの特徴である劣化については10年保管した程度では破れません。4号鳥の子和紙に対し3号鳥の子和紙は少々ミツマタ(三椏)が混ざっており上級の和紙となり紙の裏、つまり板が少し透けます。最高級の雲肌麻紙も種類によっては裏面が透けますが、耐久性があると言われています。鳥の子和紙の相場ですが、地元の画材店で3号で2700円に消費税、4号で1600円に消費税でした。
大事な日本画ですが、費用面で高くつきますので貧乏な人は4号鳥の子で練習するのがよいと思います。初心者の方でもお金持ちの方ははじめから高級和紙を買っていただくとみんなが喜ぶ思います(笑)

20170317

和紙のフォクシング(カビ)除去にエタノール 日本画無料講座 第五十二回

日本画の和紙がカビた(フォクシング褐色斑点が発生した)のでエタノールで除去を試み実験しました

日本画和紙のフォクシングというカビ(褐色斑点)

日本画を描いていると、カビ(フォクシングまたは褐色斑点)という問題に直面します。和紙にオレンジ色のシミや褐色の斑点がいくつも生じるのはカビが原因です。本なども同じようにオレンジ色や茶色のようなシミが発生します。この紙(本や古文書や絵画に使われている紙)や木の板(文化財など木製の作品)に褐色のシミが出来る現象をフォクシング(foxing)と呼びます。

フォクシングは和紙(本や日本画や古文書など植物の繊維)が劣化変質する

私も日本画を描いているのでわかるのですが、フォクシングが発生する場所は湿気の高い場所に集中する傾向にあります。ホコリが溜まると湿気も籠りますのでフォクシングが生じやすくなります。建物の二階以上に置けば良いだろうという単純な考えは対策になりません。家庭用のプラズマクラスター除湿器もフォクシングの対策としては効果がありませんでした。私はシャープのプラズマクラスター除湿器を愛用していますが、除湿効果はあるものの、スイッチを切ればまた湿度はすぐ上がるためカビそのものを防ぐ効果はありませんでした。フォクシングはカビが紙を食べている現象が人の目に見える状態になっているので紙が劣化しています。フォクシングが生じるのは何も和紙や本だけではありません。木綿や麻など植物の繊維で出来ている物ならどんな物でも、着物や洋服にもフォクシングは生じます。

フォクシングはいつ発生するか?

紙にカビが発生する原因に季節はあまり関係ありません。確かに梅雨から秋にかけてカビが生じやすい湿度と気温というものがありますが、湿度が高ければ冬や春でもカビは生じます。和紙を入手したその年あるいは翌年にはフォクシングが生じますので和紙の買いだめなどなさらないようにしましょう。

家庭でできるフォクシング対策

和紙や本をカビさせないためには、狭い所に作品や大事な物を収納しない、ホコリの溜まる場所に置かない、通気性を良くするしか対策はありません。押入れや戸棚などカビが喜ぶ場所に大事な絵画や文書などを保管しないことが一番です。ひと昔前(江戸時代以前)の日本や朝鮮、中国の本棚は部屋の中央に棚が置かれて書物を大事にしていました。桐箱の中にも湿気は入ります(除湿剤を入れて置いたら湿気がしっかりと溜まってました)ので安全とはいえませんが、紫外線を遮る効果のほかには桐の成分がカビを抑制する効果はあるかもしれません(桐箱の外側はカビが生じます)。しかし現代では本や絵画といえば壁の隅に置かれて大事にしていると思い込んでも実際は粗末に扱っていることがほとんどです。また額縁に大事に入れているから安心ということはありません。和紙は湿気を吸収したり放出したりしますのでその際に胞子のフィルターになるものを挟むなどしてカビの付着を防ぐ対策が必要となってきます。フォクシングを防ぐためには紙と乾燥剤を合わせてビニールなどで密閉するしかありません。しかし乾燥し過ぎもまた紙を劣化する原因となり乾燥を好むカビもいますのでカビに対する根本的な解決法は酸素を遮断する以外にありません。

エタノールでカビを殺菌する

日本画和紙にフォクシング(カビ)の発生を確認・除去を試みた
日本画和紙にフォクシング(カビ)の発生を確認したので除去を試みました。この和紙は2年ほど前に購入したものでしばらく段ボール箱に立て掛けたまま保管していたため、段ボールの底面に近い箇所にフォクシング(カビ)が発生していました。筆者も病気がちで絵画を描く気力が無かったので紙のメンテナンスまで気を配っていませんでした。段ボール箱に和紙を入れておいたことがまずかったようです。

このままフォクシングのある和紙を作品に使えばカビが拡がることは間違いありません。誰も見向きもしない私の作品が後世に残るとは思ってもいませんので、せっかくの和紙を捨てるのはもったいないので、できる限りカビを除去ようと試みました。

殺菌用エタノール(アルコール)をフォクシング(カビ)の除去に使います
殺菌用エタノール(アルコール)をフォクシング(カビ)の除去に使います。今回使用したエタノール(アルコール)は「フマキラーキッチン用アルコール除菌」です。どこにでも売られている台所用除菌スプレーです。
通常は博物館や図書館などでこのような余計なエキスの入っていないエタノールを使用します。使用時はマスクとゴーグルと手袋を着用します。無水エタノールは30%の濃度であり今回のような複数のカビを除去したい場合に使用します。消毒用エタノールは濃度が80%あり紙が変形します。参考文献「カビが発生したら」http://www.library.metro.tokyo.jp/Portals/0/15/pdf/15ac3.pdf
カビ(フォクシング)にエタノール(アルコール)を吹きかけました
試しにカビの生えた和紙に家庭用のエタノールを直接噴霧してみました。和紙にエタノールを吹きかけた瞬間は和紙が透き通りました。今回は水張りしたばかりの和紙ですので本のように塗料の脱色や変色の心配がありません。塩素も水洗いすれば使えそうな気もしましたが紙の色が抜けると思いやめました。

エタノールの塗布は吹き付けるのではなくエタノールを染み込ませた絹か何かで拭うなどしてもっと丁寧にしたほうがよいかもしれません。筆者の場合は価値ある作品ではなくまだ描く前の和紙の状態でしたので適当に行いました。

和紙のカビ(フォクシング)除去結果
数時間後・・・フォクシング(カビ)のスポットはきれいに消えたかのように見えました。しかし根が残っているスポットが二か所残りましたのでもう一度エタノールを吹きかけておきました。カビキラーが風呂のカビに完全に効かないのと同じで、どうやらエタノールでも完全にはフォクシング(カビ)を除去することはできないようです。

フォクシング(カビ)除去にエタノール使用は絵画や古文書(本)を傷める危険があることがわかった!

フォクシング除去にエタノールは紙を傷め変質させる

私はフォクシング(カビ)のスポットを除去出来て喜んでいました。しかし私はエタノールが紙の繊維を変質させていることに気が付きました。塩素は明らかに紙を脱色するのに対し、エタノールもまた紙の繊維に浸透して繊維を変質させていました。

念のためもう一度和紙を水で濡らして確かめてみました。するとエタノールを吹き付けたところがきれいに表れました。もしかしたらフマキラーの家庭用エタノールの精油成分あるいはカテキンエキスでありエタノールのシミではないかもしれませんが、これではさすがに日本画を描くことはできません。カビ菌もまだ付着しているだろうし、やむなくこの和紙を破り捨てることになりました。

また実験する機会があれば、次回は家庭用の消毒用エタノールで同じようにエタノールによるシミが和紙に残るのか実験してみたいと思います。

サクションテーブルとは

日本画などの文化財の修復ではサクションテーブル(suction table)という特殊な台が用いられます。要するに網状のテーブルで裏側に水を透過させて汚れを洗浄し裏側から水を吸引します。そして膠で絵具を定着させます。穴の開いた和紙は漉填(すきばめ)という手法で水に溶かした和紙で埋められます。